ネタニヤフ政権の任期は2026年の10月までだが、人質解放の成果が国民から忘れられる前に早期の総選挙を実施する可能性があるだろう。議会は現在、連立与党がぎりぎり過半数を維持して政権を運営しており、ハマスと合意を結べば政権を離脱するとしていた極右政党は閣議で合意に反対票を投じた。
しかし、捨て身の早期総選挙を実施しても与党勢力が過半数を維持できる見通しはまったくない。最新の世論調査では「首相が2年前のハマス奇襲の責任を取って辞任すべき」との国民が66%。首相が惨敗する可能性もあり得よう。
影の主役
人質全員解放の影の主役は米国のウィトコフ中東担当特使とトランプ氏の娘婿クシュナー元上級顧問の2人だ。2人はクシュナー氏の妻で、トランプ氏の娘のイバンカ氏とともに11日夜、テルアビブの「人質広場」で大群衆を前に演説、「奇跡は起きる」などとして人質解放の合意を祝福し、喝さいを浴びた。
だが、ウィトコフ氏がネタニヤフ首相に言及すると、群衆から大ブーイングが起きた。首相がこうも嫌われるのは人質の命を二の次にしてハマス攻撃を続け、その結果、命を落とした人質たちが多かったからだ。人質の家族らは解放を最優先するよう要求したが、首相は聞く耳を持たなかった。
米ニューヨーク・タイムズなどによると、ウィトコフ、クシュナー両氏は半年ほど前から自宅のあるフロリダ州マイアミの人工島にある超高級マンションを舞台にガザの和平案を練った。トランプ提案はワシントンではなく、マイアミで作成されたのだ。英国のブレア元首相も2人の取り組みに参加した。
2人は不動産デベロパーが本業の億万長者で、外交は素人だが、「まずは人質の全員解放に同意させ、詳細はその後で」という考えでハマスとの交渉を続けたという。クシュナー氏は第1次トランプ政権当時、イスラエルとアラブ3カ国との国交樹立という「アブラハム合意」に尽力した。
イスラエルの地元紙によると、2人は合意の直前、エジプトのシャルムエルシェイクの「フォーシーズン・ホテル」でハマス交渉代表のハリル・ハヤ氏ら4人の幹部と会談、人質の解放後にイスラエルに攻撃させないようトランプ大統領が保証する旨を伝えた。カタール当局者の仲介によるものだったが、これが最終的に、ハマスの人質解放の決断につながったとみられている。
トランプ氏はイスラエル議会の演説でガザ戦争の終戦を宣言し、「新たな中東の夜明け」と称賛した。だが、人質との交換で釈放されたパレスチナ人たちはイスラエルの攻撃で破壊されたガザのがれきの山に何を見たのか。新たな憎悪の火が灯ったのは間違いない。イスラエルに一方的に肩入れした和平案では真の平和はやってこない。
