もちろん誘導されるように答えてしまった首相にも問題はある。事実、10日の同委員会で高市首相は「反省点として、特定のケースを想定して明言することは、今後、慎もうと思っている」と述べている。
質問が通告された時点で、首相は関係する外務省と防衛省と対応を協議し、従来通り、日本が集団的自衛権を一部行使する具体例については明示せず、あいまいに徹するという姿勢を貫く必要があった。この点でも反省が必要だ。
機密を含む安全保障をどう議論するのか
ただし、反省するだけでなく、今回の対応から教訓も導き出してもらいたい。それは主権者国民の代表機関である国会の場で、機密を含む安全保障をどう議論するのか――といった重要な課題でもあるからだ。
『防衛白書』(令和7年版)は、中国の対外的な姿勢や軍事動向を踏まえ、わが国と国際社会の深刻な懸念事項であるとともに、これまでにない最大の戦略的挑戦だと記述、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面していると指摘している。であるならば、台湾有事に限らず、今後も日本を取り巻く安全保障環境をめぐって、国会では突っ込んだ議論や審議は避けられない。
今回焦点となった「存立危機事態」とは、2015年に成立した安全保障関連法制の中で新設された概念で、武力攻撃事態対処法を改正し、「わが国と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生したことによって、わが国の存立が脅かされ、国民の生命や自由が根底から覆される明白な危機」と定義された。
しかし当時は、核武装する北朝鮮と強大な軍事力を持った中国の脅威を念頭に議論しているものの、具体的に中国による台湾の武力統一、いわゆる「台湾有事」を想定して議論したわけではない。だが、ロシアのウクライナ侵略以降、台湾有事が現実味を帯び始めているだけに、これから議論する可能性が高いということでもある。
とはいえ、必要な議論であっても、議論するたびに今回のように日中間で激しい摩擦が生じることは避ける必要がある。
