韓国・慶州で2025年10月30日に起きた「事件」を、どれだけの人が予測しただろうか。歴史認識で強硬姿勢を貫き、靖国神社を毎年参拝してきた高市早苗首相、かつて日本を「敵性国家」と呼んだ李在明大統領。この水と油のような二人が、予定時間を倍以上も超えて45分間、和やかに語り合ったのだ。
会談後、高市首相は満面の笑みで「とても温かく歓迎していただいた」と語った。韓国大統領室も「終始、和気あいあいとした雰囲気」と説明する。「極右」と「左派」——そんなレッテルは、どこかへ消え去ったようにみえる。
「韓国のり大好き」発言が変えたもの
日本生まれの韓国人ジャーナリストで韓国の政治情勢に詳しい徐台教氏は、日韓首脳の推移をこう予測していた。
「韓国メディアは高市首相を『極右』や『女版・安倍』と表現するのに躊躇いがない。ただ、日韓関係は18年の元徴用工訴訟に関する韓国大法院判決や、19年の日本政府による韓国向け半導体材料の輸出規制のように、正面衝突するという論調ではない。韓国が嫌う極右的な行動や発言が出てきた場合はどうなるかわからないが、流石に日本側が管理するだろうという見方が大勢を占めている」
日韓関係は12年の李明博大統領(当時)による竹島上陸を機にシャトル外交が途絶えていたが、尹錫悦大統領が誕生したことで12年ぶりに再開した。「実用外交」を掲げる李在明大統領も、退任間際の石破茂首相(当時)と会談したばかり。
この流れが止められるかもしれない。韓国メディアは警戒感を隠さなかった。だが、そんな空気を一変させたのが、高市首相本人の言動だった。
首相就任会見で彼女は屈託なく語った。「韓国のりは大好き。コスメも使っている。韓国ドラマも観ている」——外交辞令ではない、等身大の言葉。これが韓国メディアで大きく報じられると、李大統領は会談のお土産として、韓国のりとコスメを用意した。
さらに驚きで受け止められたのは、会談場での高市首相の振る舞いだ。カメラの前で李大統領と握手を交わした後、席に向かう途中で彼女は立ち止まり、日の丸と太極旗に向かってそれぞれ深々と一礼した。事前に計画されたものではない。国旗への敬意を重んじる高市首相の、咄嗟の判断だった。
