2025年12月6日(土)

WEDGE REPORT

2025年11月17日

 高市首相が「韓国のりが好き」と語ることが好感を持たれるのも、日本人の日常に韓国文化が溶け込んでいる現実があるからだ。政治家の発言が国民の実感と一致している——これが説得力を生む。文化交流の拡大は、政治的対立があっても両国関係を下支えする強固な基盤となっている。

懸念すべき不安定要因

 しかし、このまま良好な関係が続くと楽観することはできない。上述の徐氏は「今後、安保三文書の改定など防衛面で日本が旧来の立場を外れることになる場合、李在明は全方位的な苦境に陥る可能性がある」と、日本側の出方を懸念していたが、それは早くも現実になりつつある。

 高市政権は25年度中に防衛費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げる方針を打ち出し、さらには26年に国家安全保障戦略など安保三文書の改定も目指している。現在の安全保障情勢では、日韓の防衛力強化は相手国の安全にも大きく寄与するものだが、長く複雑な歴史を共有する両国には合理的な判断が難しいのかもしれない。そんな事例が起こった。

 11月7日付読売新聞は、韓国の軍楽隊が今月中旬に東京都内で開催される「自衛隊音楽まつり」への参加を見送ると日本側に伝えたことが分かったと報じた。軍楽隊の参加は9月の日韓防衛大臣会談で合意したもので、実現すれば10年ぶりの快挙だった。

 この背景には、またしても竹島がある。韓国空軍のアクロバット飛行チーム「ブラックイーグルス」が11月中旬にアラブ首長国連邦のドバイで開かれるエアショーに参加するため、航空自衛隊那覇基地で給油を受ける予定だった。しかし、同チームが10月28日に竹島周辺で飛行していたことが明らかになり、日本政府が首脳会談直前の30日に給油を断ったという。これにより同チームのドバイ行きもなくなった。

ブラックイーグルスの航空機(Adrian ..., CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons)

 日韓には軍事物資を融通しあう物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれていない。朝鮮半島有事で韓国軍を指揮する在韓米軍と国連軍は一体で、日本には国連軍の後方基地(在日米軍基地)が7カ所ある。戦時において、国連軍と韓国軍、自衛隊の緊密な連携が必要になるのは言うまでもない。ブラックイーグルスへの給油は、ACSA締結に向けた最初のボタンになるはずだったのだ。

 日韓の政治家と実務者は協定が必要なことを十分に理解しているが、歴史的・政治的な背景から手をつけたがらない。ゆえに関係者からは「パンドラの箱」とも呼ばれている。

 改めて高市首相と李大統領の会談を振り返ると、イデオロギーよりも地政学的現実と国民生活の実態が、二国間関係を規定する時代になったと言えるのではないか。両首脳は「極右」と「左翼」というレッテルを超えて、現実主義的な選択をした。

 これまでの日韓であれば。首脳会談直前の給油中止の通告で、会談自体が流れていたかもしれない。そう考えると、ぎくしゃくしながらも両国関係は前進していると見るべきだろう。ただし、両国の政治家と実務家は、日韓は対立を続ける余裕がないことを、いま一度認識しなければならない。

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