2025年12月13日(土)

Wedge OPINION

2025年11月21日

国会議員に直言した
垂前駐中国大使の思い

 しかし、高市首相あるいは高市内閣として考えるならば、別の思考や政策が必要なのは言うまでもない。

 高市氏は、トランプ政権が表向きは中国との関税戦争を展開しながら、水面下では米中が着々と協議を重ね、新たな世界秩序に向けて激しくせめぎ合っている現実を直視しなければならない。9月に北京で中露朝の首脳が一堂に会し、対米対抗軸を誇示したが、世界の不安定要因である台湾、北朝鮮、ウクライナなどの問題に関して習近平がトランプ大統領を取り込み、中露朝陣営に有利な展開になれば、日本にとっては悪夢である。中国を無視して日本の国益は実現しない。

 筆者が聞き手となり、垂秀夫前駐中国大使にインタビューして今年6月に刊行した『日中外交秘録―垂秀夫駐中国大使の闘い』(文藝春秋)には、24年4月、退任後の垂氏が国会議員への講演でこう説いたという場面が出ている。

 「台湾を昨年訪問した国会議員は100人以上にものぼります。一方、中国には10人も行っていない。いったい何をしているのですか。国会議員という立場で日本外交を考えるならば、まずはアメリカと中国でしょう。そのうえで台湾に行くべきではないですか」「(中国から離れた)日本で中国批判をしても、何も変わらない。中国に言いたいことがあるなら、乗り込んで行って直接言えばいい。少なくとも私はそれをやってきた」

 高市氏は習近平との会談で「懸案や課題を減らし、理解と協力を増やしたい」と持ち掛けた。もはや「一人体制」の習近平と直接対話しないと、日本産食品の輸入規制や邦人拘束問題、海空での衝突回避メカニズムなど日中間の懸案は何も解決しない。トランプ大統領も習近平を説き伏せ、「ディール」を交わすことを最優先外交目標の一つに掲げている。

 日本外交は今、米国、中国双方との「距離感」が問われている。習近平外交は対米関係を基軸としており、日本の存在も対米外交の延長としかとらえていない。高市氏が米国と一緒になって強硬な対中批判を並べ立てたり、米国が対中圧力を加えるために日本を利用するような日米関係になったりすれば、習近平にすれば、米国だけを相手にすればいいわけであり、積極的に対日外交を行う必要はないと感じるだろう。

 一方、高市氏が、トランプと習近平の間で絶妙な距離を保ち、双方から一定の信頼を得られれば米中にとって日本の存在価値は高まったはずである。

習近平はこの2人の関係をどう見ているのだろうか?(TOMOHIRO OHSUMI/GETTYIMAGES)

 しかし、日中対立が決定的になった現状では、「対米最優先」で防衛費増額の前倒しなど、安全保障面の日米同盟をさらに増強し、米国との「対中共闘」を強化する方向に進むだろう。高市氏は日本国内に漂う反中世論の絶大な支持を得て選出されたこともあり、世論を裏切れないという実情も抱える。いずれ靖国参拝への判断も迫られよう。


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