ただ、高市氏の「台湾有事」発言で中国側が対抗措置を繰り出す中、尖閣諸島や台湾有事をめぐる不測の事態がいつ発生してもおかしくないのが現状であり、習近平に直結する「バックチャンネル」の構築が求められる。中国側の意図や本音を聞き、日本側の考えを習近平周辺に伝えるルートの確保は、相互誤解による事態悪化の回避につながる。
高市内閣の顔触れを見た場合、中国共産党にパイプを持つのは林芳正総務大臣(元日中友好議連会長)くらいだ。林氏は若い頃から対中パイプづくりに注力し、中国外交を統括する日本通の王毅外交部長(中央政治局委員)は林氏と会えば「老朋友」(古き親友)と呼び合う。だが総務大臣では対中パイプを活用する機会は限られる。再登板の茂木敏充外相は首脳外交が停滞しても王毅との外相ルートを維持できるだろうが、それ以上のパイプは期待できない。
「知日派」政治局委員との
パイプ構築が欠かせない
ここで、日中両国がこれまで培ってきた「外交資産」を活用した対中パイプの再構築を提言したい。
日中両政府は2000年から11年まで「中央党校交流事業」を展開した。中国への政府開発援助(ODA)を使って共産党幹部養成機関「中央党校」で研修中の将来有望な指導者候補を日本に招き、行政や経済産業政策、環境問題、地域振興に関して日本の制度や経験を学び、吸収してもらうことで中国の改革に役立て、共産党内に知日派を育成するという戦略的プロジェクトだった。日本政府が12年に尖閣諸島を国有化し、中国政府が大反発するまで毎年続き、小泉首相の靖国問題(01~06年)や中国漁船衝突事件(10年)で日中関係が緊張しても継続した。
12回で計993人が訪日研修を受け、多くが昇進したが、その中には現在、共産党中央政治局委員(現23人)を務める▽石泰峰中央組織部長(05年訪日)、▽尹力北京市党委書記(同)、▽李書磊中央宣伝部長(09年訪日)が含まれる。いわば「知日派」になった3人はその後も日本の要人と会い、対日協力の重要性を発言している。24~25年に石と李は立憲民主党訪中団(いずれも団長は岡田克也氏)と、尹は元衆院議長の河野洋平日本国際貿易促進協会会長やみずほフィナンシャルグループの木原正裕社長と会見した。
習近平側近の3人はトップに直結するチャンネルであり、王毅とともに、何とかつなげておきたい相手だ。かつて自民党幹事長の二階氏が防災・減災問題で、四川省長だった尹力と協力を深めたことがあった。四川大地震10周年の18年5月8日、訪日した尹力が二階氏と会談し、同月28日には今度は尹力が二階氏を成都に招き、「中日防災減災フォーラム」を開催した。
二階氏は「媚中」と言われるリスクを負いながら、対中パイプづくりに尽力した。野中と曾慶紅のように言うべきことを言い合い、信義で向き合う関係を作れれば理想だが、野中や二階のような腹の座った政治家はもはや現れないだろう。
対中パイプに関して最後に付言したい。連立政権を離脱した公明党に対して中国側がどう工作を仕掛けるかは注目すべきである。習近平は、1972年の日中国交正常化に貢献した公明党の代表が訪中しても会見に応じず、冷淡さが際立っていた。
ただ習近平指導部は高市首相との関係がさらに悪化すれば、伝統的な統一戦線工作を展開し、高市氏を「敵」、高市氏と訣別した公明党を「友」とみなして接近することは予想される。ただ甘い「友好」をうたう古いタイプの対中パイプはもはや必要ない。公明党が言うべきことを直言する対中政策を取るならば、古くて新しい対中パイプになる可能性はある。
