高市首相のみならず、周囲を支える政府・党の面々に台湾と繋がりの深い人材が多いことに対して、中国は強い警戒心を持っていると言われていた。萩生田光一・自民党幹事長代行はもとより台湾との関係が深い。党四役の選挙対策委員長には古屋圭司衆院議員も名を連ねる。古屋氏は、超党派議員連盟の親台湾議連「日華議員懇談会」の会長であり、自民党のなかでもトップレベルの親台湾派である。
さらに、その古屋会長のもとで、日華議員懇談会の事務局長を務める木原稔官房長官がいる。ほかにも内閣や党の要職には台湾と近い議員があふれており、どちらかといえば中国に親しみを持っている人物が多かった石破茂政権と比べると、中国にとっては「台湾色」の強い政権に見えても仕方がないかもしれない。
実際のところ、高市政権には台湾接近をあからさまに進めようという意識がなかったとしても、中国は先述のように陰謀論に傾きがちで、高市首相の発言が飛び出し、習近平国家主席がキレて対日制裁の大号令が降ったとしか考えられない。
その意味で、日中の現在の対立の影の主役は台湾であり、日本がその台湾とこれ以上の接近を進めることを阻止する「日台分断」が中国の大きな狙いであろう。
台湾と日本の内部の分断も図る
中国が作り出そうとしているもう一つの分断は台湾内部の分断である。今回の高市発言についても、頼総統をはじめ民進党政権幹部は高く評価するコメントを出しているし、中国の対抗措置には「自制」を求めている。
一方で、国民党の馬英九元総統は、高市発言に対して「軽率な言動だ」と批判し、元国民党主席の洪秀柱氏はより直接的に「台湾海峡のことは日本人に関係がない」と言い捨てた。馬英九、洪秀柱ともに国民党の中でも特に中国政府と近い立場にある人物だが、台湾ではネット、SNSを中心に「高市と頼清徳はともに中国をいたずらに刺激するトラブルメーカーだ」という印象づけを狙った情報が拡散されている。
さらに忘れてはならないのは日本内部の分断である。
安全保障を重視し、中国にとって利にはならない高市路線が日本で主流化すれば当然中国はやりにくい。観光・留学のみならず、レアアースなどの資源、日本企業の対中ビジネスなど、対日カードで最も有効性が高い経済カードをさらに切り、日本の中で反高市勢力を盛り上げ、高市政権の脆弱化と親台路線への疑念を作り出すことを望んでいるはずだ。
そしてそれは一定の効果をあげつつあるようにも見える。日本人はその点にもう少し警戒的であるべきだろう。
