メディアを通じて意思を伝達
金杉大使への抗議を伝えた中国国営通信社・新華社の記事には、「奉示召見」という言葉が使われている。「上級者の指示に従い、呼び出した」という意味だ。
外交部の上級者、おそらくは習近平総書記の指示だと、わかる人にはわかるようになっているのだ。なにやら陰謀論めいた話に思えるかもしれないが、こうした暗号じみた上意下達の仕組みは中国では珍しくない。
他にも人民日報には「鐘声」というペンネームの作者によるコラムが不定期で掲載されている。「鐘」の中国語読みはジョン(Zhong)で「中」と似た発音だ。すなわち、この「鐘声」とは「中国の声」をもじってつけたペンネームで、中国の外交姿勢を伝える最高レベルのメッセージとして理解されている。中国外交においてきわめて強い“政治シグナル”とされる。
この鐘声のコラムだが、14日に「高市早苗の台湾問題におけるラインを超えた挑発を絶対に許してはならない」、17日に「日本の戦略方針の危険な転換に警戒せよ」と2本連続で対日外交に関するコラムを発表。中国共産党最高指導部が対日外交路線を強硬化する方針で合意したことを示している。
トップの方針に全力で“忖度”
では、旅行、留学、映画、芸能など多岐にわたる制裁について、そのすべてを習近平総書記が指示したのだろうか。詳細は闇の中ではあるが、そうした個々のアクションについて最高指導部はタッチしていないと推測されている。
最高指導部は「日本は許せない。徹底的にやる」との号令を発するところまでで、具体的なアクションは省庁、地方政府、国有企業などがそれぞれ自分の管轄の中でできる日本制裁を考えて実行していくという流れになる。こうした仕組みは中国では「1+N」と呼ばれている。トップ(1)の号令に、部下たち(N)がそれぞれ全力で”忖度”していくというわけだ。
中国の官僚・国有企業・地方政府は、中央の意向を読み取って先に動くことで組織への忠誠を示す仕組みが定着している。電気自動車(EV)やドローンの普及といった経済問題から、コロナ対策、そして外交的“報復”まですべてでこの「1+N」の仕組みは貫徹している。
トップの方針に従ってアクションを起こせるか、それが忠誠心のパラメーターとなるだけに影響はさまざまなところまで及ぶ。たとえば、大学間の交流や国際会議といった、およそ政治とは無関係で、とりやめたとしても日本世論になんら影響を与える可能性がないようなケースも中止になることが多い。
なにかアクションを起こさなければ忠誠心不足とみなされるリスクがあるのだから当然だろう。ゆえに報復はさらに拡大すると考えられる。
