2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月27日

 欧州諸国は、イランに対して米国との交渉の再開、IAEAとの完全な協力、さらに高濃度の濃縮ウランがどうなっているのかの説明を要求している。他方、11月4日、イラン外務省のバーゲリ報道官は、「IAEA関係者の矛盾した発言はイランとIAEAの協力に資さない」と述べ、イラン側は、イランにはNPTの加盟国として同条約に基づいてウランを濃縮する権利があり、イラン側はウラン濃縮を諦めないが、その限界について協議する用意はあるとしている。

 AP通信によれば、IAEAは、IAEA側がアクセス出来ない核施設で既に新たな動きがあることを掴んだとして、高濃度の濃縮ウランが持ち去られていない事を確認する必要がある由である。他方、イラン政府高官は、空爆された施設では何も活動は行われていないとしている。

 グロッシ事務局長は、「核施設の受けたダメージは甚大なだけではなく、IAEAの評価では60%の濃縮ウラン及び20%、5%、そして2%の濃縮ウランはそこにあると見ている。しかし、最終的にそうだと結論付けた訳ではないし、そもそも、核兵器級に近い高濃度の濃縮ウランが存在する事自体が懸念の元であることは明白だ」と述べている。

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西側に不信を高めているイラン

 イランがIAEAによる空爆された施設への査察の協力を拒むのは、イラン側の立場に立てば、(1)IAEAでイランがNPTを遵守していないという決議が出た翌日にイスラエルがイランを空爆したが、このIAEAの決議がイスラエルの空爆の口実とされたのではないか。(2)米国は、核問題について引き続き協議する約束をしていたのに、突然、核施設を空爆するという背信行為をした。(3)欧州諸国は、イランがイラン核合意(JCPOA)を遵守していないとして国連による対イラン制裁を再開した(いわゆるスナップ・バック)が、イラン側からすればそもそもJCPOAを破ったのは米国(第1次トランプ政権時の2018年に米国がJCPOAから一方的に脱退し、米国による対イラン単独制裁を再開した)であるのに、なぜイランのみが非難されるのか、ということだ。

 つまり、イラン国内では、「イランが約束を守っても、国際社会の側が背信行為を繰り返している」という不満がある。

 他方、国際社会として簡単に核兵器級に濃度を上げられる高濃度の濃縮ウランの在処が分からないのは大きな問題であり、イランに対して査察再開を求めるのは至極真っ当な要求だ。しかし、核開発問題で西側に対して不信を高めているイランが自発的に受け入れる可能性はほとんどない。従ってイランに圧力を掛ける必要があるが、問題は、西側諸国にイランに圧力を掛ける梃子がないことである。


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