欧州諸国が9月27日にスナップ・バックを発動させてイランに対する国連制裁を再開させたのは、JCPOAの規程により同条項は10月18日までしか効力がないためだ。つまり、10月18日以降はイランに対して国連制裁を課す手立てがなくなるために無理矢理に伝家の宝刀を抜かざるを得なかった。
しかし、イラン側は18年にトランプ政権が対イラン単独制裁を再開して以来、制裁を無効化させる方法を開発しており、いまさら国連安保理決議に基づく制裁を再開してもイラン経済に対する影響は限定的と思われる。
西側諸国にイランが6月に空爆された核開発関連施設へのIAEAによる査察を再開させるための圧力を掛ける手立てがなく、このままずるずると事態が続き、さらにイラン側に空爆された施設の再建の動きが活発化すれば(例えば、11月2日にペゼシュキアン・イラン大統領は「(破壊された核関連施設を)より強固に再建する」と表明している)、再度、これらの核開発関連施設に対するイスラエルと米国による攻撃が行われる懸念が高まる。
特に来年には米国で中間選挙を控えており、米国内政上の混乱を避けるために年内に再攻撃が起きる可能性が高い。最悪のシナリオは、6月の空爆後、核抑止力の必要性を認識して、実はイランが既に核兵器の製造に着手している可能性だ。
トランプは「飴」を渡すか
西側にイランに対して圧力を加える手立てがないとすれば、残るのは「飴」だが、一つの可能性としてトランプ政権がこれまで拒否していたイランのウラン濃縮活動を認めるという大幅な譲歩の可能性がある。「ウラン濃縮はNPTで認められた国家の権利であり、絶対に諦めない」と主張するイラン側の面子が立つのでこれには乗ってくる可能性がある。
しかし、このような方向転換にはイスラエル側が猛反発するのは明らかであり、トランプ政権側としてそこまで大きな譲歩が出来るかどうかは分からない。しかし、11月6日にトランプ大統領が「イランは制裁を解除出来るか尋ねてきた」と発言したのは、水面下で何らかの動きがあることを示唆しているのかも知れない。いずれにせよ中東ではガザの停戦に耳目が集まっているが、イラン情勢も看過出来ない段階に来ている。

