「7両編成」の難しさ
それでも、検測車は営業車とは目的が全く違いますから、独自の設計が必要になるところは多々あります。一番大きな違いは、編成の長さです。
営業車は16両1編成ですが、T4は検測工程の要望から7両編成に決まりました。電気関係施設の検測用に6両、軌道関係の検測に1両という内訳です。この7両編成というのが、まず大きな問題でした。
700系新幹線は、走行モーターを搭載した車両(M車)が3両と、モーターを搭載していない付随車(T車)が1両という4両が1つのユニットになっていました。ところが、7両となると、このユニットの組み合わせでは組成できません。
同じ奇数の編成でも、2ユニットに1両T車が付加された9両編成なら、まだ話は簡単なのですが、9両では過剰になって、検測の業務を効率的にこなせなくなります。最終的にM車6両とT車1両という構成にしました。M車3両が一つのユニットになっていて、そこに1両のT車が加わった「3M+1T+3M」というイメージです(注:M車はMotor、T車はTrailerから来ている)。
また、T4は日中、営業車のダイヤに支障をきたさないように運用するために、営業車と同様に最高時速270キロで走る必要がありました。この6M+1TというM車とT車の比率にすれば、営業車の12M+4T(3M+1Tが4ユニット)の比率を上回っているので、出力は営業車よりも余裕があります。
先頭車をM車にする
3M+1T+3Mという構成を可能にするためには、先頭車をM車にしないといけません。営業車の場合、先頭車はモーターを搭載しないT車なのですが、T4では真ん中の軌道検測車の台車にはモーターを搭載できないですし、M車とT車の比率の問題で、どうしても先頭車もM車とする必要があったわけです。
しかし、先頭車をM車にすると、走行モーターから発生するノイズを、どう処理するかという問題が生じました。それというのも、先頭車には運転台があり、そこには自動列車制御装置(ATC)をはじめ運行に不可欠なデータの送受信や表示などのため、コンピューターの塊といってよいほど電子機器が詰まっています。それらの機器にとって、走行用のモーターが発するノイズは大敵なのです。
新幹線は2万5000ボルトという高電圧の電力を架線から車両に取り入れて、その電圧を落として走行モーターの駆動はじめ、さまざまな機器に使っています。しかし、いくら電圧を落として使うといっても、モーターを駆動する電圧は、5ボルト程度のコンピューター機器内の電圧とは桁違いに大きなものです。先頭車をM車にすると、この桁違いの電圧が先頭車の中で共存することになります。安全・安定な運行には、コンピューターを間違いなく動かす必要があり、そのためには絶対にモーターの発するノイズが、コンピューター機器に影響を及ぼさないよう、遮断する必要がありました。この先頭車内のノイズを遮断する設計には一番神経を使いました。
