2025年12月14日(日)

Wedge REPORT

2025年12月14日

「切り替え」のテクニック

 もう一つ頭を悩ましたのが、パンタグラフです。

 T4には、通常の集電用のパンタフラフに加えて検測用のパンタグラフが必要です。検測用と集電用、別々のパンタグラフを設置すると、計算上、5本のパンタグラフが必要になりました。しかし、7両編成で5本のパンタグラフは多すぎます。

 この問題を解決するために考え出したのが、一つのパンタグラフで検測用と集電用の役割を切り替えるという方法で、パンタグラフを4本に抑えることができました。しかし、集電と検測という、まったく異なる機能に切り替えるわけですから、技術的には難しい点がいろいろあり、これを実現できたことも、T4開発の大きな思い出の一つです。

2つならんだパンタグラフ。その向こうにはパンタグラフを観測するドームが見える

 切り替えといえば、先頭車の制動力についても、営業車とは異なる仕組みを取り入れています。鉄道車両も個々の車輪に制動をかけて止めるわけですが、雨が降った時など、先頭車の車輪に、他と同じ強さの制動をかけると、車輪が滑って制動が効かなくなる「滑走」という現象が生じます。これを防ぐために、通常の営業車では先頭車の車輪のブレーキの効きを他よりも少し弱めるといった方法を採っています。

 ところが7両編成になると、前後の先頭車のブレーキを常に弱めたままにすると、列車全体の制動力が弱くなる恐れがあります。そこで、T4では、前方の先頭車だけのブレーキを弱めるという、進行方向に応じて先頭車のブレーキの効き方をコントロールする方法を採りました。切り替えようとすると、設計が複雑になるわけですが、それをスッキリとまとめられるよう、頭を使いました。

3台車から2台車の検測へ

 T4の大きな革新には、軌道検測を行う車両を2台車にできたという点も挙げられます。これは、私たち制御グループではなく台車グループの成果です。

 T4の先代に当たるT2編成では、軌道検測用の車両は、走行用の台車2台の間に検測用の台車を1台入れる3台車方式を採用していました。しかし、1両に3台車というのは極めて異例な構成です。

 台車の数のように基本的な仕様が変更されると、1から設計をやり直す必要が生じます。なるべく700系車両をベースに設計したいので、2台車で走行も検測もできるようにすることがベストです。その頃、技術の向上で2台車での検測が可能になったこともあって、T4では軌道検測車両(4号車)も2台車にできました。T4の4号車はより営業車に近い設計になりました。

技術革新の一翼を担ったT4

 T4には、将来の技術開発の要素を入れて、勉強を続けていました。同じ系統の車両は、外観が同じなのでみな同じだと思われているかもしれませんが、0系、100系、300系…など、同じ系統の車両でも、実は中身はどんどん進化しています。

 同じ700系量産車といっても、製作時期によってそれぞれ違っているわけです。T4の中にも、700系量産車で使おうと思っていた技術を取り入れ試験もしました。

 その一つが情報伝送です。電車を動かすには、ブレーキ指令、力行(自動車でいうアクセル)指令、それから空調など、いろいろと専用の指令が必要になってきます。昔はこれを指令ごとに電線を分けて送っていました。その電線の束を連結器の中に仕込んで、連結によって隣の車両と電線がつながるようにしています。

屋根の上にある観測ドームから見たパンタグラフと東京の夜景

 それが700系の頃になると、200本を超えるまでに電線の数が増えました。連結器が満杯になって、別の接続装置が必要になってきます。


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