日本が講じてきた対応
日本はすでに、リスク化した「対中依存度」の低減に向けて対応している。政府レベルでは、「経済安全保障推進法」(22年5月)が施行されている。
①重要物資の安定的な供給の確保、②基幹インフラの安定的な提供、③先端的な重要技術の開発支援、④特許出願の非公開指定、などを柱とする「基本法」であり、これに基づいて各分野で具体的施策が決定、実施される体制となっている。すでに、このスキームで23年7月には、中国を念頭に置いた半導体製造設備輸出規制が開始された。
また、レアアース供給源の多角化を図るべく、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や商社を通じた海外鉱山開発への参加などを進めており、対中依存度を05年の100%から24年の62.9%へと低減している。代わって増加したのがベトナム(依存度32.2%)、タイ(同4.8%)である。
他方、企業レベルの対中依存度低下に向けては課題が多い。確かに新型コロナ感染症流行ショックを受けて、多数の在中国日本企業が生産拠点や部品・原材料調達先を移転したことは事実であり最近でも日本企業の撤退は続いているものの、対中依存度が低下したとの分析はまだない。
繰り返しになるが、日中間の分業関係は深く、代替先を探すことは簡単ではない。サプライチェーンの強靱性を論じる際に重要な、電気・電子機器(例えば半導体製造装置の輸出で38.6%、ノートパソコン輸入で98.8%)、自動車部品(輸出で17%、輸入で59.1%)などにおける対中依存度は高いままである(注:自動車部品輸入は自動車用電線・ワイヤーハーネスの統計)。
今後はどうなるのか
かつてレアアースを巡って中国側が発動した輸出規制(10年、実は報道ベースのみで中国政府発表無し)は、上述したような日本による供給源多角化追求につながり、同様の動きは米国、欧州にも波及した。中長期的に見て中国にとって利がある判断でなかったことは明らかだ。
その後も、中国はレアアース関係企業を統合し、産業チェーンの川下に至るまで国家管理を強化することで世界市場における独占的地位を握り続けている。しかし、それを「制裁手段」として使ったのは関税戦争を仕掛けてきた米国に対抗してのことであり、米国の譲歩を受けて現在は停止されている。
また、両国間の分業関係=サプライチェーンについては中国から見ても、日本は他では代替困難な相手であり、この関係を断ち切れば中国企業・経済も相応の打撃を受けることになる。レアアースなど資源にせよ、電気・電子機器、自動車などの製造業にせよ、中国による輸出入規制が発動されることは当面ないと予想する。
ただし、今回の日中間の緊張状態が示しているように、中国は政治・外交問題を理由として経済制裁を発動する国である。日本としては、可能な分野では対中依存度を引き下げて、政治・外交的緊張に経済が振り回されるリスクを減らしておく必要がある。
その方向性は、すでに多くの論者が指摘しているように、経済的利益と安全保障のバランスをとった戦略である。具体的には、輸出競争力の強化、グローバルサウスとの関係強化、重要物資の安定供給確保、そして官民の情報共有強化、を指向すべきであろう。
