この訪問からはこれ等の象徴的な事柄以外にほとんど何も起きなかった。インドによるSu-57戦闘機の計画、インドによるS-400防空ミサイルシステムの取得の話し合い、アクラ級攻撃型原潜のリースの可能性なども噂されていたが、このような合意は確認されなかった。
署名された合意は貧弱なもので、両国が主張するような深い政治的関係を反映するものではなかった。ロシアとの関係を深めることが米国およびインド・太平洋と欧州のパートナー諸国との関係に不必要な困難をもたらすことをニューデリーは懸念したものであろう。
理想的には、ニューデリーは色々なパートナー諸国の間のバランスを取ることを望んでいるが、そのことは誰も敵に回さないことを意味する。実質的な成果がほとんどない声高な訪問は丁度ぴったりと考えられたのかもしれない。
そのような戦略の危険性は、インドが誰も満足させられない結果となることである。ロシアはインドが十分に支持してくれないと苛立つかもしれないが、他の諸国はインドはやり過ぎだと思うかも知れない。
不幸にして、強力な中国を前にして、インドはすべてのパートナーを必要とすると恐らく考えている。このことは、惨めに失敗する危険が常にあるが、それでもインドはこの綱渡りを演じ続けることを意味する。
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戦略的自律を保持したインド
インドが非同盟を唱えた冷戦の時代から、インドとロシアは強固な関係にある。しかし、過去20年ほどの間に、インドはゆっくりとロシアの軌道を離れ、西側に対する歴史的な不信感を克服して来た。
インドは米国との戦略的パートナーシップを注意深く構築して来た。しかし、突如として、トランプはインドがロシアの石油を買い続けていることも理由に50%の関税を課し、最近の四半期に8.2%の成長を遂げたインド経済を「死んでいる」と蔑むなど、両国関係は冷え込んでいる。
圧力にもかかわらず、インドは耐えているようである。関税の取り扱いを含む貿易交渉はいまだ決着しない。
そういう状況であるので、12月4、5日のプーチンのインド訪問はモディにとってきわどいものであったに違いない。戦略的自律を旨とするモディが如何に訪問をさばくのかにメディアは注目したようである。
訪問の前から、メディアでは訪問の焦点の一つは防衛面での協力だと取り沙汰されていた。インドによるS-400防空ミサイルシステムやSu-57ステルス戦闘機のインドによる取得が議題になるとされていた。
インド・メディアによれば、クレムリンのペスコフ報道官はS-400とSu-57は首脳会談の優先的議題だと言っていた由である。次世代のS-500の共同生産すら議論になるとされていた。
もう一つの注目点は石油だった。ロシアのウクライナ侵攻の前は石油輸入に占めるロシアのシェアは2%だったが、昨年は36%に跳ね上がった。10月にトランプ政権がロシアの石油企業RosneftとLukoilに制裁を発動して以降、インドの輸入は減少に転じたが、プーチンにしてみれば、インドの輸入の継続を期待したいに違いない。石油が首脳会談の議題にならなかったはずはない。
