しかし、S-400とSu-57を含め防衛面での具体的成果は何もなかった。石油は話題になったらしいが、議論の内容は明らかにされていない。メディアは肩透かしを食らった形である。
訪問後には、訪問は欧米メディアにはほぼ無視されたようである。インド政府高官は今回の訪問の焦点は経済関係にあったと強調しているが、それにしては共同声明に盛られた成果はインパクトに欠ける。
米国との戦略的パートナーシップは離さない
「実質的な成果がほとんどない声高な訪問は丁度ぴったりと考えられたのかもしれない」とする、上記の論説の観察は当たっているように思われる。インドには他のオプションもあることをやんわり示せば十分だった。いかなインドとて、この局面で石油について何か成し得るはずもない。
ここで防衛面の協力に更に踏み込むことは、危険に過ぎた。納入が遅れている発注済みのS-400がある模様であるが、納入期限や性能の問題も絡んでいるのかもしれない。
インドにとって、注意深く構築されてきた米国との戦略的パートナーシップを放棄する利益は何もない。米国との関係は構造的なものである。
両国は中国の覇権の野心を掣肘することに共通の利益を有する。戦略的自律は多極化世界の極の間を揺れ動くことではなく、米国との強固な関係を維持しつつも米国に呑み込まれることなく自身の利益を追求する空間を確保することにあると思われる。
モディのプーチンとの共同記者会見でのステートメントにおいて「過去80年、世界は数多くの変転を目の当たりにして来た。人類は多数の挑戦と危機に当面して来た。しかし、この状況を通じて、インドとロシアの友好は導きの星(guiding star)のように揺らぎのないものであり続けた」とモディは述べたが、ロシアとの関係が「導きの星」では戦略的自律を放棄することに等しいであろう。

