たとえば、スターバックスを世界的ブランドへと育てたハワード・シュルツは、「従業員を尊重する会社である」という考え方を、業績が厳しい局面でも変えなかった。人材投資や福利厚生は短期的にはコストに見えたが、その姿勢が従業員の誇りと顧客の共感を生み、長期的な競争力を支える要因となった。
一方で、新年に「挑戦」や「変革」を掲げながら、四半期業績が悪化した途端に人材育成や研究開発を削減し、実質的に目標を引っ込めてしまう企業も少なくない。その瞬間、目標は「本気ではなかった」というメッセージに変わり、翌年以降、誰も真剣に耳を傾けなくなる。
信念を貫いた経営者の共通点
日本企業の中で、目標を信念として機能させた例として、伊藤忠商事代表取締役会長(CEO)の岡藤正広が挙げられる。岡藤は「朝型勤務」「現場重視」「稼ぐ力の再構築」といった方針を、単なる改革スローガンにとどめず、働き方、評価制度、投資判断にまで落とし込んだ。新年に掲げた方針が、そのまま日々の行動基準として使われる状態をつくり上げたのである。
海外では、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードが象徴的だ。彼は「地球を救うためにビジネスを営む」という信念を、売上拡大よりも優先する判断基準としてきた。
環境負荷の高い製品はつくらない、修理を勧める、さらには企業の所有を信託と非営利団体に移し、利益を環境保護に充てる枠組みを整えた。その姿勢は、新年の目標が企業の存在理由そのものと結びついている好例と言える。
目標を社内外に浸透させる三つの要点
信念としての目標を社内外に浸透させるには、まずは以下三つの要点を理解する必要がある。日々の経営と結びつき、実際に使われているかどうかが問われる。
第一に重要なのは、目標を判断の言葉にまで具体化することである。「成長する」「挑戦する」「顧客第一」といった言葉は美しいが、判断を助けないことが多い。信念としての目標とは、「この状況なら、利益が出てもやらない」「短期的に不利でもこちらを選ぶ」と言い切れる言葉である。判断を伴わない目標は、どれほど立派でも行動を変えない。
第二に欠かせないのが、目標を繰り返し語り続けることである。新年の年頭挨拶で掲げただけでは、信念にはならない。会議、評価、投資判断、日常の対話など、あらゆる場面で同じ言葉が使われているかどうか。その積み重ねが、目標を組織の共通言語へと変えていく。
