「ゼロ・トゥ・ワン」
神の御業を再現する
デニーン氏のようなポストリベラルとともに第3のニューライトをかたちづくっているもう一つの有力な勢力がテック右派である。かつてから現在に至るまで、シリコンバレーのテック企業関係者の多くは、民主党を支持してきた。しかし今日では、そうした層の中からトランプ支持に転じる者たちが現れてきた。
24年の大統領選挙でトランプ氏に付き添い、第2次トランプ政権で政府効率化省の先頭に立ったイーロン・マスク氏は、その代表である。火星への人類移住を掲げ、テクノロジーの進歩を説く一方で、選挙期間中にトランプ氏を批判した歌手のテイラー・スウィフト氏のフェミニスト的主張を揶揄するなど、進歩的な経営者精神とリベラル批判を併せ持つマスク氏は、テック右派と呼ぶにふさわしい典型的な存在である。
パフォーマンスの派手なマスク氏の陰に隠れがちであるが、テック右派としてマスク氏以上に存在感を示してきたのが、ペイパルやパランティアの共同創業者であるピーター・ティール氏である。16年の大統領選挙でトランプ氏が初当選の際に、ティール氏はトランプ支持を明確にした。また、政権移行チームにも力を貸したティール氏は、一時トランプ氏と距離を置いた時期もあったが、第3のニューライトの思想的リーダーの一人であり続けてきた。
知る人ぞ知るティール氏の主張の特徴は、テクノロジーの進歩への信念とキリスト教の信仰との融合である。ティール氏の『ゼロ・トゥ・ワン─君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版)は、日本でもビジネス書として多くのビジネスパーソンに読まれ、刺激を与えてきた。ティール氏はこの著作の中で、ゼロから1を生み出すことの重要性を説いている。まさに無から有を創ったのは神である。
ティール氏にとってゼロから1を創り出すテックのスタートアップの起業家たちの振る舞いは、神の御業を再現しているのに等しいのであり、テクノロジーを進歩させていくことは、キリスト教の神の栄光を称えることにつながるのである。
それに対して1から多を生み出し、ただ量的な増大をはかることは、ティール氏にとって評価にまったく値しないことである。ティール氏によれば、今日、1から多を生み出すことに注力し、「偽」の繁栄をもたらしている最たる国は中国である。第3のニューライトの一角をなすテック右派を代表するティール氏の反中主義は、冷戦時代のニューライトが掲げた反共主義のような、イデオロギー対立に由来するものではなく、宗教に基づく世界観の違いから生じたものである。そのため、ティール氏に象徴される第3のニューライトの対中スタンスは、かつての米ソ対立のような激しいものではないにせよ、相容れない異教的存在に対峙する際の、よそよそしさを帯びているのである。
