兵士の人命に対するウクライナとロシアの違い
この戦争に投入されている兵士自体の数は、大方の予想と違って、実は、開戦当初から今日に至るまで、侵略するロシア軍より防衛するウクライナ軍の側が常に上回っている。そのことを踏まえれば、ウクライナ軍の犠牲者数がロシア軍の犠牲者数の約半分に止まっていることは注目に値する。
その理由としては、人海戦術で無謀な作戦を繰り返すロシア軍と人命保護を重視するウクライナ軍の作戦思想の違いが指摘できる。すなわち、侵略するロシア軍は、クレムリンからの政治的圧力もあって、地上戦においては、とにかく前進して占領地の拡大を目指さざるを得ない。ウクライナ軍が対戦車障害物、地雷原、塹壕、大砲、ドローン等からなる堅固な防衛ラインを構築するとともに、激しい市街戦を展開している東部戦線において、連日のように突撃作戦を敢行せざるを得ないロシア軍は、現在、一日平均1100人から1300人の戦死傷者を出していると推計される。
これに対して、ウクライナ側は、地上戦においては防衛に徹している。23年6月の南部戦線における大攻勢の失敗等の責任を取って解任されたザルジュニー総司令官から24年2月に替わったシルスキー現総司令官は、就任後の最初の内外記者会見以来、折に触れて、総人口でロシアの3分の1以下のウクライナとしては、防衛に徹して、無理な作戦を回避して、地上戦線の維持に専念すること、そして、戦闘においては兵士の人命重視、そのための野戦医療体制の充実を重視する方針を明らかにしている。
この結果として、ウクライナ軍の犠牲者、特に、戦死者は、ロシア軍よりずっと少ないと推計されている(CSISによれば、ウクライナ軍の戦死者が10万~14万人であるのに対して、ロシア軍は27.5~32.5万人)。
三者協議に見えた〝変化〟
1月23~24日にアブダビで開催されたウクライナ・ロシア・米三者協議において、ロシア側代表団を率いたのは、プーチン大統領の特使ドミトリエフ氏ではなくて、ロシア軍参謀本部情報総局のコスチュコフ局長であった。この戦争におけるロシア・ウクライナ軍の犠牲や戦争によってロシア経済・社会にもたらされた否定的影響等を知り得る立場の人物であった。
それを反映して、アブダビでの協議におけるロシア代表団が空虚な長広舌ではなくて、戦争を終わらせるために実効的な措置に関して真剣に協議に応じたとウクライナ側は評価している。因みに、ウクライナ代表団にも前ウクライナ国防省情報総局長のブダノフ現大統領府長官が含まれていた。
ただし、ロシア側において、この戦争を終わらせる決断を出来るのは、プーチン大統領のみであり、プーチン大統領が戦争の実態と自軍の被害を正しく理解しているかどうかが問われている。
