2026年2月28日(土)

脳が長持ちする会話

2026年2月28日

認知症の「急激な進行」への不安

辛酸: 少し話は逸れますが、20代で認知症を発症し2年後に亡くなったという報道を耳にしました。認知症って、どうしてそんなに早く亡くなってしまうのでしょうか? 年を重ねた後の認知症もそうですが、急に進むものなのでしょうか。

大武: そこは分けて考える必要があります。若い方で起きる機序がわからないタイプの認知症と、加齢で誰にでも起こり得る認知機能の低下とその先にある認知症とでは、少し性質が異なります。この本で主に扱っているのは後者で、「歳を重ねると大なり小なり機能が落ちてくる」ことをどう遅らせるか、という話です。

辛酸: なるほど。

大武: 私が認知症の研究を始めたきっかけは祖母でした。体は比較的丈夫なのに、脳のほうが先に弱っていくように見えたんです。

辛酸: 体は元気なのに、脳だけが先に…というのは、見ている側もつらいですね。

大武: 臓器って、必ず同じ順番で悪くなるわけではないですよね。心臓が先の人もいれば、別の臓器が先の人もいる。だから「脳が弱る=すぐ亡くなる」という単純な図式にはなりにくいのです。一方で、まだメカニズムがわかりきっていない部分もあるので、そこは研究が続いています。

辛酸: そうなのですね。先日父が亡くなったのですが、まず足が悪くなって歩けなくなってから少しずつ弱っていった印象です。

大武: 加齢による変化に話を戻すと、認知機能はあるところまではじわじわ落ちるけれど、どこかで“臨界点”を下回ると、急激に悪化することがあります。だから、その臨界点をなるべく下回らないようにしていく、という発想になります。

辛酸: 急にガクッと来るのを避ける、ということですね。

大武: その通りです。完全にゼロにするのは難しくても、「起こりやすい条件」を減らすことはできるかもしれない。その積み重ねが「脳が長持ちする」ことにつながる、という考え方です。

脳の“ゴミ掃除”は早期介入がカギ

辛酸: とはいえ、いずれ薬ができるとか、医療の力で何とかなる部分も出てくるのでしょうか。

大武: いま、原因物質を除去する薬が少しずつ出てきています。ただ、「溶かしたら終わり」ではなく、タイミングが重要だと言われています。脳の中に物質がたまって、その結果、細胞が死んでしまう。細胞が壊れるほどたまった段階で原因物質を除去しても、元に戻らない部分が残ってしまうのです。

辛酸: なるほど…“壊れてから掃除しても間に合わない”みたいな。

大武: まさにそのイメージです。壊れてしまった後に燃えかすを捨てても、もう燃やす元がない。だから、もう少し早い段階で除去しておかないと効きづらい、という議論があります。私の友人で薬を開発している人がいますが、「薬ができたからこそ、早くやらないと間に合わないことがわかった」と話していました。

辛酸: そう聞くと、若いうちからの予防が大事だ、という話にもつながりますね。

大武: そうなんです。ここでよく出る比喩が「脳のゴミ」なのですが、脳に不要なものがたまる前に、たまりにくい生活にする。

辛酸: 部屋が乱雑だと脳の状態も似ている、みたいな話もありますよね。

大武: 自戒を込めてですが(笑)、私も片付けは得意ではありません。ただ、情報も環境も「入れただけ」だとぐちゃぐちゃになる。重要なのは「入れて、出す」こと。

辛酸: アウトプットですね。

大武: その通りです。脳はアウトプットする時に回路が強化される仕組みになっているので、入れっぱなしだと情報が抜け落ちやすい。「読んだ」「聞いた」で終わらせずに、「話す」「書く」「誰かに説明する」。これが情報の定着にもつながるし、脳の“整理”にもなります。

辛酸: 私は文章を書いたり絵を描く仕事なので、結果的にアウトプットを強制されているところはあるかもしれません。

大武: それは強いですね。常に「外に出す」前提で情報を扱うので、ただ浴びて終わり、になりにくい。

 

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