2026年3月12日(木)

Wedge REPORT

2026年3月12日

日本の風評対策に欠けた視点

 これらの結果、何ら有意な汚染など起こさないALPS処理水に対する社会的議論で日本社会は混乱し、貴重な時間やリソースが空費され、復興政策は遅れ、莫大な追加の風評対策費が税金から支払われることになった。ところが、これらは「福島の地域的問題」として枠組み・認識されることで、問題の本質が理解されずにきた。これは政治家や、行政などの公的機関さえ例外ではない。

 たとえば福島県が2025年8月に出した「福島県風評・風化対策強化戦略」で、「ALPS処理水の海洋放出や廃炉作業における新たなトラブルの発生等による風評のリスクがあり、粘り強く継続した風評払拭の取組が必要」と示した。この「風評対策」には決定的に欠けている視点がある。

 それは、【「風評」の送り手側に対する分析・記録・検証】である。たとえば、以下5つの問いに答えられるだろうか。

(1)どのような言動があったのか?
 いつ、どこで、誰から、何に対し、どんな言動があり、どの程度影響があったのか? 

(2)誰が風評を起こしている? 
 偏見や誤解している人がそう思うに至った情報源は? 何に影響されて誤解しているのか?

(3)風評が続く原因は?
 「正しい情報や丁寧な説明が足りない」からなのか? だとすれば誰に向け、どの程度、どのような内容が、なぜ足りないのか?

(4)「正しい情報」がなぜ伝わらない?
 「正しい情報さえ伝われば風評は解消される」前提は正しいのか? そもそも受け手は「正しい情報」「風評の解消」を求めているのか? 聞く耳を持たず情報伝達を歪める勢力には何も対策できないのか? 

(5)従来の「風評対策」の妥当性に対する根拠・検証は?
 何を根拠に決定されてきた? どれだけ効果があったのか? いつ誰が検証するのか?

 これらへの回答は少し難しいかもしれない。なぜならば、当事者であるはずの福島県や国などの行政でさえ恐らく答えられないからだ。

 「風評被害」とは、本来的には「ある事件・事故・環境汚染・災害が大々的に報道されることによって、本来『安全』とされる食品・商品・土地を人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害」を指す。(関谷直也: 「風評被害」の社会心理 - 「風評被害」の実態とそのメカニズム -, 災害情報, No. 1, pp. 78-89 (2003))

 一方で、福島での原子力災害の「風評被害」には、本来の経済的被害に加え、偏見差別などの人権侵害にまで用語と概念が拡大して幅広く使われ、浸透していった。(法務省 東日本大震災に伴う風評被害等に関する人権啓発デジタルコンテンツについて(2011年6月10日)、和歌山県人権啓発センター:『風評被害とは、「事実ではないのに、うわさによってそれが事実のように世間で受け取られ、被害をこうむること」です。このような根拠のない思い込みや偏見により、例えば、学校でのいじめなどの人権侵害が発生しています』(2019))


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