25年版厚生労働白書でも、若者に社会保障改革の当事者意識を持ってもらうための教育の重要性が強調されている。厚生労働省に設置された検討会では、有識者による模範授業の開発が進められている。
これまでの教育現場における社会保障教育は、公民の教科書に登場する「用語の暗記」に留まっていた。制度の名称を知っていても、いつ、どこで、どのように申請すれば自分の生活を守れるのかという「活用能力」の知識が圧倒的に不足しているのである。
これは、教える側にも課題がある。教員という安定した職業では、相対的に社会保障制度の知識が求められる場面が多くはない。仮に必要になったとしても、必要な情報を集め吟味する基礎能力が備わっているため、「制度を知らないがゆえに、困った事態に陥る」という状況に陥りにくい。
しかし、経済的困窮や家庭の事情を抱える生徒にとって、社会保障は単なる知識ではなく、生存のための生命線である。そうした生徒ほど、制度を頼ることを「恥」と感じたり、自分には関係がないと思い込んだりする傾向にある。
今までの社会保障教育では、心理的な抵抗感をどう軽減するか、制度を利用するためのノウハウをどう獲得するかという視点が欠けていた。一言でいえば、「利用者の目線が欠けていた」のである。
心理的抵抗を軽減して社会への信頼を育む
本事業は、24年度の試行期間を経て、着実に実績を積み重ねてきた。生徒たちの満足度は平均8.55点(10点満点)に達している。
「社会保障ゲーム」がもたらす最大の政策的影響は、制度の利用を「慈悲を乞う行為」から「権利の行使」へと昇華させる点にある。SCAの進行役を務める専門家が指摘するように、制度利用を阻むのは「恥ずかしい」「誰かに知られたくない」という心理的障壁である。社会保障ゲームという模擬体験を通じて多くの制度に触れさせることで、「誰もが利用できるのが社会保障である」という事実に気づかせる。
社会保障ゲームの開発者である横山北斗氏は、次のように語る。
「私は生活困窮者の支援現場で、多くの『手遅れ』の事例を見てきました。あと少し早く制度に繋がっていれば、これほど深刻な状況にはならなかったはずだ、という悔しさが常にありました。若いうちに『困ったときは頼っていいんだ』という感覚を養うことは、生涯にわたるセーフティネットを確保するようなものです。このゲームは、制度を教えるためだけのものではありません。社会に対する信頼を育むための道具なのです」
