2026年4月3日(金)

21世紀の安全保障論

2026年4月3日

 事件を時系列で振り返ると、①3月24日午前9時ごろ、自衛官が中国大使館の敷地に侵入 ②正午過ぎ、同大使館が警視庁に通報 ③午後4時ごろ、自衛官の身柄が日本側(警視庁)に引き渡される ④午後9時過ぎ、同庁が建造物侵入容疑で自衛官を逮捕 ⑤午後10時過ぎ、同庁が記者発表――という流れだ。

 しかし、警視庁が発表する5時間も前に、中国外務省の報道官が会見し、「(犯人は)神の名のもとに中国外交官を殺す」と脅し、「日本国内に極右思想と勢力がはびこり、新型軍国主義が勢いを増し、害を及ぼしている」などと主張、日本で起きた事件にもかかわらず、真偽も定かでない中国の言い分だけが拡散してしまった。

 それでも政府が対応の遅れを挽回する機会はあった。それは翌25日午前、木原稔官房長官が「誠に遺憾だ」と発言した場面だ。

 この機会を捉え、①「ウィーン条約」に基づき、大使館など外国公館の安全は、受け入れ国(日本)に責任がある ②仮に北京の日本大使館で同種の事件が起きれば、日本政府は間違いなく抗議する――などと説明しながら、「大使をはじめ中国大使館の方々には多大なご迷惑をおかけした」と普通に謝罪の姿勢を示しておけば、ここまで政治問題化することはなかっただろう。前述した①と②の根拠を示せば、誰も謝罪する政府を非難などしない。

軍国主義復活を喧伝し続ける中国

 事件の背景で示したように、政府の対応の根底にあったのは、高市首相が就任して以来、枚挙にいとまがないほど繰り返される中国の対日批判への憤りであり、頭など下げたくないという思いだろう。自衛官を指揮・監督する立場の小泉進次郎防衛相が「誠に遺憾だ」と語ったのが、事件発生から3日も経ってというのが、それを象徴している。だが、政治家が思う以上に、国民の間に“嫌中意識”が広がっていることに注意する必要がある。

 事件後、中国国営メディアの「環球時報」や「人民網」は、容疑者が自衛官だったことを利用し、自衛隊が右翼勢力の影響を強く受けているなどと強調、海上自衛隊のイージス艦がトマホークの発射能力を備えたことを日本の軍国主義復活に結び付ける根も葉もない記事を創作し、発信し続けている。それらは中国発のSNSで拡散されている。

 しかも事件の前から、中国の王毅外相や中国の国連大使は、世界各地で「日本は戦争への反省がない。日本の軍国主義復活のたくらみに断固反撃」などと喧伝し、国際社会に誤った対日印象を擦り込もうと画策している。いったい日本社会のどこを見たら軍国主義が復活する兆しがあるというのか――。

 私たちは事実と異なる中国の発信、いわゆる「認知戦」にどう対処すればいいのか。その思いを募らせ、憤ったのが、事件の容疑者だったのではないだろうか。だとすれば、自衛官に限らず、新たな容疑者が出現しないとも言い切れない。


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