事前設計主義からの脱却
品質などの属性が均一化して差異がなくなり、相場によって大量に取引されるようになった農産物や天然資源などをコモディティ商品という。工業製品がコモディティ商品になることはないが、市場において競合との差別化が困難になり事業利益が下落する状況はコモディティ化と呼ばれている。デジタルやインターネットなどの技術の急速な発達によって製品のコモディティ化が加速するなかで、製品を提供する企業は、その製品自体の価値だけでなく、その製品を利用する過程で顧客が感じる価値(経験価値)にも着目した事業戦略や商品戦略を考える必要がある。これは日本のモノづくり全体に求められていることだ。
前述したようにゴープロという製品自体に特筆すべき機能はない。日本のビデオカメラメーカーであれば簡単に作れてしまうものだ。しかし、その製品を利用する過程で感じることができる価値は、確実に「諦めていた顧客」の心をつかみ、サーフィンをする人たちだけでなく多くのアスリートや映像産業などのユーザーグループを獲得した。そして、その周辺にはゴープロの利用シーンを拡げるアクセサリーを競って開発してくれるサードパーティーなどによって小規模ながらエコシステムといえるものが形成されている。
このような製品を作り上げるには、これまでの日本のモノづくりで行われていた事前設計主義、すなわちすべての要件を仕様化してから時間をかけて作り込むというやり方から脱却する必要がある。あなたの顧客が諦めていることを見つけ出し、それを満たすために既存の製品からの引き算ではなく、ゼロからの足し算で持てる技術から必要最小限の尖ったモノをつくり市場に提供する。
もちろん、それまでになかった新しいモノが提供されたとき、人々がその価値をすぐには理解できず市場に受け入れられるまでに時間がかかることは多い。ゴープロもアイポッド(iPod)も3年かかっている。その間のユーザーの思いを積み上げていくプロセスが人々の共感を得ることにつながる。