2026年5月11日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2026年5月11日

 こうした国債の売りと円の売りが重なる背景には、国際市場として、日本の財政規律への懐疑的な視線がある。特に一時期の野党がこぞって「財政規律より手取り」というポピュリズム的主張を繰り返していたこと、また高市政権が「積極経済」を看板に掲げていたことは「国内総生産(GDP)の200%を超える国家債務に対して危機感が薄い」と思われたのは間違いない。

支えられていない個人資産

 構造的変化ということでは、個人金融資産の動向も無視できない。長い間、日本の国家債務がGDPの倍以上あるのは確かだが、その債務残高1000兆円超は、2000兆円を超える日本の個人金融資産によって相殺されるとしてきた。これは財務省の公式見解でもあり、国民もこれを信じてきた。

 その個人金融資産であるが、現在は額面通りに考えることが難しくなっている。消費や相続による減少は限られている。問題は、資産の海外逃避(キャピタルフライト)が本格化しているということだ。海外逃避というと、自国を信じられない途上国の富裕層が欧米の銀行に蓄財をして摘発を受けるといった印象だが、日本の場合は全く違う。

 例えば、一般人にも身近な保険会社の金融商品、証券会社の投資信託などでは、今は外貨建のものが積極的に売られており、一般の市民が普通に選択している。NISA(少額投資非課税制度)にしても同じような状況だ。個人金融資産には当たらないが、日本の公的年金資金については「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」が約250兆円の資産を運用しているが、50%は国内、50%は海外で回している。

 つまり、個人金融資産が2000兆円あるといっても、その半額は海外で投資されていると考えていいだろう。ということは、国内には1000兆円しか残っていないことになる。

 そして国債の発行残高はジリジリと増えて、1300兆円台になってきている。つまり、個人金融資産で相殺されるというのは過去の話であり、現在は相当額が国際金融市場の洗礼を受けていると考えられる。

 そんな中で、国際市場からは、与野党の姿勢について警戒心が生じている。つまり、日本の国家債務に関して、そして債務の総額に鈍感と言われても仕方がないのが現状で、これが今回の深刻な円安と債券安の背景にあると見た方が良い。

日本は世界最大の米国債の保有国

 では、ベッセント氏はどうして急遽このタイミングで来日するのだろうか。そこには2つの問題がある。1つは、円がこのまま劇的なまでに下がってしまうのは、トランプ政権の基本方針に背くという問題だ。日本の輸出産業はとっくの昔に空洞化しており、円安が対米貿易の追い風になるというのは現実ではなくなっている。

 けれども、トランプ氏の支持層、特に年金受給世代には、自動車摩擦で日本に痛めつけられた記憶が残っている。彼らの心情としては、ドル円が必要以上に安くなってはならない、という一種の思いが強い。そんな中で、円がどんどん下がるというのは、アメリカの政治心理の問題として看過できないであろう。

 ただ、この問題は一種の印象論に過ぎない。問題は2つ目である。


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