しかしながら、こうした付け焼刃の対応では油価の高騰は収まらないかもしれない。事実上封鎖されているホルムズ海峡を世界の原油(海上輸送)の約25%、LNGの約20%が通過していたが、仮にアラビア半島のもう一つのチョークポイントである紅海から繋がるバブ・エル・マンデブ海峡(マンデブ海峡)が封鎖されれば、中東産エネルギー資源は干上がり、需給が一気にタイト化する。原油、LNG価格もさらに高騰するだろう。
マンデブ海峡を実効支配するイエメンの反政府武装勢力フーシ派はイランと連携する。これまでのところ、フーシ派のイラン戦争に応じた動きは抑制的であるが、同派が暴発し、マンデブ海峡を封鎖するリスクはゼロではない。
対ロ制裁は、原油やガスLNG価格を急騰させたが、欧州へ向かうロシア産原油・LNGがアジア向けにシフトする「貿易フローの再編」により、価格は次第に落ち着いていった。これと異なり、ホルムズ海峡に加え、マンデブ海峡封鎖に至れば、ウクライナ危機時を上回る深刻な事態となる可能性がある。
肥料輸出国から「危機管理プレイヤー」に
次に、ロシアが尿素・アンモニアといった窒素肥料に着目していることを挙げたい。ホルムズ海峡は、世界全体の尿素の約2割強、アンモニアの約2割弱が通過する肥料輸送の要衝であり、その大宗はインドを中心とするアジア市場に向けて輸出されてきた。
イランの尿素の世界シェアも約5~8%であったが、その生産・輸出も止まっている。中東の尿素・アンモニアがガスから生産されるように、世界有数のガス大国ロシアで生産される尿素の世界貿易に占めるプレゼンスも同様に高く、その世界シェアは約14%、アンモニアは同約30%となっている。
カーネギー・ロシア・ユーラシア・センター上席研究員のプロコペンコ氏は今年3月の論考(“Beyond Oil : Hormuz Closure Puts Russia in the Lead in the Fertilizer Market”)にて、ホルムズ海峡の封鎖は肥料市場を直撃し、施肥量が減ることに伴い、6~9カ月後のタイムラグをもって食料インフレが顕在化すると指摘する。そして、その過程において、ロシアの「安定した肥料供給者」としての地位は押し上げられると分析する。
ロシア連邦安全保障会議副書記のマスレンニコフ氏は、今年4月、「食料安全保障確保のため、まずBRICSおよびユーラシア経済連合との協力を拡大し、とりわけ共同食料備蓄の創設を進めるべきだ」と対外ブリーフィング時に公式発言した。目下のところ、この共同食料備蓄は構想段階に留まっているが、グローバルサウスと中東危機に伴う肥料価格の上昇と食料インフレへの懸念を共有しながら、ロシアが単なる資源輸出国から、肥料や食糧の「危機管理プレイヤー」であることを国際社会にアピールしようとしているようにみえる。
