2026年6月15日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2026年6月15日

価格はどのように上がっていくのか

 石油供給が不安定になれば、全体の価格が上がる。中東のホルムズ海峡を通らず、南米やアラスカから石油を運べばコスト高になる。

 価格は、上げやすいモノから上がっていく。全体としては足りているとしても個別には足りないモノがある時、足りないモノの価格が他のモノ以上に上がる。足りないと予想されれば、手元に在庫を積み上げようとする。また、ガソリン補助金が支給されている状況では、おそらくガソリンは価格を上げやすい商品となっているだろう。

 塗料やシンナーの原料となるトルエン、キシレンなどがガソリンのために優先的に回されているのかもしれない。すると、塗料やシンナーの不足が生じる。

 不足が生じ、価格が上がると予想されれば、手元の在庫を積み増すことになる。しかし、無数の製品のうちのどの在庫を積み増すか、個々の企業の判断によるしかない。政府がこれらのことをコントロールできる訳がない。

 時代劇では、コメの買い占めは必ずコメ商人の利益になるという前提で語られているが、買い占めたものは、いつかは売らなければならない。コメが下がってしまえば大損になる。

 原油やナフサから最終製品までの流通は、川上から川下まで、無数の製品と段階がある。コメ価格高騰の時に政府は、流通の目詰まりで価格が上がっていると言ったが、結局どこに在庫があるのかも分からなかった。コメという単一の商品でも分からないのだから、無限の種類がある石油関連製品で分かるはずがない。

 将来高くなるから今のうちに、あるいは、お得意様のために取っておかなければならないと考えて在庫を積み増しても、将来、原油価格が下がってしまえば大損になる。原油価格は継続的に上がってきたと思っている方が多いようだが、アメリカの実質価格で考えると1970年代初の石油ショックの後は変動を繰り返しながら70年代央の実質価格に戻っていた(本欄、原田泰「石油備蓄放出、エネルギー補助金は是か非か?見極めるべき価格変動の“要因”、政策の判断基準とは」2026年4月9日参照)。損をすることも視野に入れて在庫を積み増さないといけない。

 通常より3カ月分多い在庫をすべての段階で積み上げれば大変なことになってしまう。そもそも、ナフサはガソリンのような危険物だから、それを置いておくことのできるタンクは限られている。石油連盟は、石油製品は購入後3カ月から6カ月で使い切ることを推奨している。

 安定した中間材料でもそんなに置いておく倉庫はないだろう。つまり、個々の業者が在庫を増やす行動は合理的で、政府は止めることはできないが、無限に在庫を増やす行動も非合理だから、限度があるということだ。

 政府は本年いっぱいのナフサ調達は確保したと言ったが、在庫を考えると本年度いっぱいまで確保して初めて本年いっぱいの確保になるのかもしれない。石油元売りは、安い時に仕入れた原油を高く売れれば儲かる。しかし、これをけしからんと言ったら、高い時に仕入れた原油は原油が下がっても高く売れるようにしなければならない。これはおかしな話だ。原油価格の一時的変動のリスクは元売りが負担するしかない。


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