2026年6月21日(日)

つくりびととの談い

2026年6月21日

押しつけない魅力
社員が働き続ける理由

 製網は大まかに言って、機械による編網に始まり、湯引き、染色、樹脂(に浸ける)、仕上げ、検査という工程を経て完成する。この間に何度も熱を加えたり牽引したりすることで結び目の固定度を高め、目合い(網の目のサイズ)を調整していく。

ゲン担ぎや利便性などの理由から、カラーは全て、色味を調整しながらオーダーメードで染められる

 漁網は全量がオーダーメードであり、客の注文通りの色や寸法に仕上げるには熟練の技が不可欠だ。特に目合いは魚種によって異なるだけでなく、数ミリ・メートルの違いで漁獲高に影響するから客もシビアになる。

 勤続31年のベテラン西角初恵さん(49歳)は、染色の手前の「整理」という部門のリーダーを務めている。女性ばかり10人の職場である。

 整理では、編網機から縦長の形で出てきた原網を「さばき」と呼ばれる作業で横長(海面と垂直の方向)に展開しながら、結び目の不良や網の破れをチェックし補修していく。

 さばきも補修も、機械化不能の完全な手作業。西角さんは小動物のような敏捷さで何十㍍もある原網をさばきながら、目視で不良箇所を発見していく。指の節に細いナイロンが食い込むと怪我をするから、巧みに節から糸をずらしながら作業をしていく。まさに神業である。

 「長い網をさばけるのは私を入れて3人しかいませんけれど、神業なんてものじゃありません。環境がいいから長く仕事を続けてきて、指の皮が厚くなっただけですよ」

工程の中で切れてしまった網を補修するためのナイロン糸とハサミ。糸は様々なカラーを取りそろえる

 西角さんはいわゆる就職氷河期世代に属する。人見知りで人前に出るのが苦手だから工場で働きたいと思っていたが、たまたま高校の先生に紹介された横山製網の水が合った。

 「私、人混みとか都会が苦手なんです。初めてここへ来た時は、びっくりするほど田舎だと思いましたけれど、いまは、このほどよい田舎感が好きだなーと思うんです」

 偏見かもしれないが、女性だけの職場は軋轢が多いのでは?

 「私自身、先輩から頭ごなしに叱られることもなく、『失敗したらやり直せばいいのよ』って言われながらのびのびやってきたので、後輩にも自分のやり方を押しつけようとは思わないんです。こちらから、ああしろこうしろ言うことはありません」

 横山製網では(100%ではないが)機械の運転と調整、製品の運搬などの力仕事は男性が担い、網の補修や検査などの手仕事は女性が担うという暗黙の棲み分けがある。

 ジェンダーの観点からは異論があるだろうが、女性どうしの方が休みの融通もしやすいし、仕事のカバーもしやすいと西角さんは言う。

 「もちろん上の立場の人間として、お客様に迷惑がかからないよう自分なりにベストを尽くしていますし、こうすればもっと速くできるのにと思うこともありますよ。でも、それを人に押しつけても楽しくない。いつか自分で見つけてくれればいいことです。私の望みは毎日を平和に、のんびりと過ごすことなんです」

 効率の追求と職場の平和の両立は難しいことだが、いったい何がそれを可能にしているのか……。

 昔、母が毛糸のかせ繰りをしながら、「悩みがある時は手を動かすといい」と言ったのを思い出した。

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Wedge 2026年7月号より
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ

ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界のエネルギー情勢に激震が走った。日本はこれまで気候変動対策や脱炭素をより重視する姿勢を貫いてきた。しかし、従来の「前提」を根底から見直す局面に立たされている。また、各地で原発の再稼働が進みつつあるが、「核燃料サイクル」実現を進めていくうえで、課題は山積している。だが、思考停止に陥ってしまえばこの現状を打破することはできない。今こそ、日本は「ひよわな花」であることを自覚し、持たざる「弱み」を「力」に変えていく時だ。

 


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