重なり合う課題と
異なる「経済安全保障」観
もちろん、ASEAN諸国も「中進国の罠」を乗り越えるべく、それぞれが国家主導型の産業戦略を掲げている。マレーシアは「新産業マスタープラン2030」、インドネシアは「ゴールデン・インドネシア2045」、タイは「タイランド4.0」、フィリピンは「発展プラン2023−2028」など、各国はそれぞれ自らの経済の特性に合わせた成長戦略を打ち出している。
今回高市首相が訪れたベトナムは、30年までに高中所得国に、45年までに高所得国入りすることを謳った「社会経済開発10カ年計画2021−2030」をはじめとした複数の国家戦略を打ち立てている。
各国それぞれに特色はあるが、共通しているのは、AI、半導体、GX、DX、バイオなどの分野に注力し、産業高度化やイノベーションに牽引された成長を目指そうとしている点である。これらASEAN諸国が重視する分野は、前述の日本の成長戦略における戦略17分野に多く重なる。すなわちASEANサイドからしても、日本との協力は彼ら自身の成長戦略、産業政策と接続する余地が大きいのである。
ASEAN諸国の成長戦略は、米中対立や保護主義の台頭、長期化するロシア・ウクライナ戦争に加え中東情勢の混迷といった不透明感の増す状況の中で、自らの経済の強靱性を高め、リスクを軽減し、生き残りを図るための経済安全保障への関心の高まりがベースにある。ただし、ここで注意すべきは、日本とASEAN諸国とで、「経済安全保障」の意味合いが必ずしも一致していない点である。
日本にとっての経済安全保障は、過度の中国依存をリスクと見なし、サプライチェーンの強靱化や依存分散を図ることに重点が置かれる。しかしながら、ASEAN諸国はむしろ、今築かれつつあるASEAN+チャイナ経済圏を所与とし、中国との結びつきを維持・強化しながら、その外縁部としていかに利益を最大化することを重視している。
彼らにとって、リスクの源泉は中国依存そのものではない。むしろ米中対立が高まり、それぞれの経済活動の囲い込みが進み、米中二極型の経済・技術圏の形成が進む中で、そこから排除される可能性こそが最大のリスクである。よって、いかに両者との繋がりを断たず、また自らが両者にとって不可欠な存在であり続けるか、が彼らの戦略の核である。
彼らはASEAN経済が中国を中心とする東アジア製造業ネットワークの中に組み込まれている状況を根本から変化させようとは考えていない。しかし、そのことで米国からの圧力や米国市場からの排除を招くのもよろしくない。彼らにとっての経済安全保障とは「中国から離れる」のではなく「米中双方との関係を維持しながら、自らの不可欠性を高める」ことにある。
そのために、ASEAN各国は、協力を進めるパートナーを拡大・進化する方向にある。高市首相の訪問の約半月前の4月半ば、トー・ラム国家主席は北京を訪問して習近平国家主席と会談し、両国が今後、貿易、投資、鉄道他インフラ整備、観光、教育、科学技術など様々な分野における一層の協力の強化を図るという方向を示した。
