他方、ベトナムはトランプ政権の突きつけた相互関税の引き下げ交渉を成功させるなど、対米関係維持にも注力してきた。先日は米ハイテク企業関係者のハノイ訪問の歓迎レセプションの席で、トー国家主席は米国を最も重要なパートナーの一つと位置づけ、経済・貿易・投資関係を主軸とし、科学技術協力をも進めることで両国の「包括的戦略的パートナーシップ」に沿った両国間の発展を期待すると表明した。ちなみに4月下旬には韓国の李在明大統領がベトナムを訪問し、原子力やハイテク協力を進めることで合意した。
さらに5月初旬にはトー国家主席はインドに飛び、モディ首相とAIや防衛装備での協力強化を謳った。
こうした多方向外交によるヘッジングは、ASEAN諸国がそれぞれ個別に、またASEANとしても進めている。パートナーを最大限広げ、それぞれの強みに合わせた協力を進めるというプラグマティズム、そして同時に特定陣営への固定化を避けることでの戦略的自律性の確保、という彼らの姿勢が透けて見える。
ASEANにとって
日本の重要性とは何か?
したがって、日本がASEANにとっての唯一の選択肢ではないことは自明である。日本人が直視すべきは、ASEAN諸国を日本が主導する、という旧来の発想では彼らと付き合うことは出来ない時代になったということだ。日本と彼らは見ている方向が必ずしも一致しないことを前提に、今後も日ASEAN関係を発展・強化していくべきである。
他方、日本には独自の重要性がある。第一に、日本は米中のようにASEAN諸国の戦略的自律性を脅かしかねない超大国ではない「第三のパートナー」であるということだ(第三、が日本だけでないにせよ)。
第二に、大国の力による現状変更によって「ルールに基づく国際秩序が崩れることで、自国の存立が脅かされる」、ミドルパワー・小国としての問題意識も共有している。国連や世界貿易機関(WTO)などの国際機関、包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)や東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)などの地域枠組みにおいて、ルールベースの国際秩序の崩壊を食いとめ、その維持に努めるという協力を進めていく必要があろう。
ASEAN諸国がより高度な産業を育成し自らがイノベーションを生み出す主体へと転換しようとする中で、技術、人材育成、制度設計、金融支援などにおいて他にはない強みを見せ、彼らの期待に応えうるかどうかも日本にとっての鍵となろう。
日本に必要なのは、ASEANの戦略的現実を理解した上で、彼らの産業高度化と日本自身の成長を接続する視点であろう。FOIPの真価も、まさにそこにかかっている。
