一方の米国は攻撃に踏み切ることで、それまで持っていた「抑止力」を失った。「抑止力」は実際に攻撃をしないで、武力行使するという「脅し」を掛けることでイランを委縮させ、圧力を掛け続けることが可能だった。しかし、いったん軍事力を使ってしまえば、もはや「脅し」はそれまでのようには通用せず、「抑止力」はその本来の効果を果たせない。
それどころかイランはホルムズ海峡を実効支配し、対岸のペルシャ湾岸産油国を攻撃した。産油国に基地を置いていた米軍も攻撃で大きなダメージを受けた。
しかも覚書では米軍は最終合意後30日以内にイラン周辺の軍を撤収させることをうたっている。開戦以前から湾岸に駐留する米軍が含まれるかどうかは明らかではない。
肝心の核協議の今後だが、焦点は2つ。イランの核濃縮を認めるのかという問題と、爆撃されたイスファハンの核施設のがれき下に埋まっているとされる高濃縮ウラン(60%濃縮ウラン)の回収問題だ。イランのペゼシュキアン大統領は「濃縮の権利は断固手放さない」としているが、トランプ大統領は濃縮停止期間を「20年」とするなど譲歩の姿勢をみせており、折り合いは付きそう。
高濃縮ウランの回収については、大統領が米軍を派遣して回収するとしているが、イラン側は国内で稀釈すると主張し、国外持ち出しに反対している。バンス氏はイランが国際原子力機関(IAEA)の「査察」受け入れに同意したとしているが、イラン側は同意していないと反論、せめぎ合いが続きそう。
発火点はレバノン
だが、核協議が行き詰まる前に米国とイランが再び対決する恐れは十分にある。発火点はレバノン問題だ。イスラエルのネタニヤフ首相は「レバノン南部からは撤退しない」とレバノンのシーア派武装組織ヒズボラ攻撃を続行する考え。
イスラエル国民の92%以上はイラン戦争の「勝者はイラン」としており、トランプ大統領に依存してきたネタニヤフ首相の人気は一気に下落した。首相は「イランには核兵器を持たせない」と戦争の成果を誇示したが、イスラム政権の体制転換、核開発の壊滅、ミサイルの規制、中東の武装組織への支援停止といった当初の目標は何一つ達成していない。
権力の座に17年あった中で最大の試練に直面したネタニヤフ首相。自分を置いてきぼりにしてイランとの交渉に進んだトランプ大統領に「恨み言の1つも言ってやりたい」(中東専門家)心境にちがいない。
