中国による海洋進出や海上監視能力の向上は、台湾有事や南シナ海有事の問題にとどまらず、日本経済の存立基盤そのものに打撃を加える恐れがある。特に近年、中国海軍は遠洋展開能力を急速に向上させ、インド洋方面への進出も活発である。これは、日本が戦後当然視してきた海上交通路の安全が最早自明ではないことを意味している。
第四に、日本は「経済安全保障推進法」の枠組みの中で天然ゴムをより明確に戦略物資として位置付けるべきである。現在、日本の経済安全保障政策は半導体、蓄電池、レアアース等に重点を置いている。しかし、天然ゴムのような成熟産業向け素材は注目度が低く、供給途絶が生じるまで危機意識が高まりにくい。
経済安全保障上の真の脆弱性は、先端技術だけでなく、代替が困難であるのに市場原理に委ねられている基礎素材に現れる。天然ゴムはその典型例である。
第五に、日本は米国以上に「備蓄」と「同盟国との協力」に依存せざるを得ない。国内生産が困難である以上、日本が取り得る現実的な選択肢は、国家備蓄の拡充、調達先の分散、東南アジア諸国との長期契約、米国、豪州、インド等との供給網の協力、合成ゴム・代替素材研究への投資である。
自由で開かれた国際貿易は当たり前ではない
総じて、本稿が指摘する天然ゴム供給網の脆弱性は、米国に対する警告であると同時に、日本に対する警告でもある。日本は資源小国であるが故に、戦後一貫して「自由で開かれた国際貿易秩序」に依存して繁栄してきた。同時に、その外交政策は、日本がその国際秩序を維持する努力が他の諸国を同様に行動させると安易に信じてきた。
その結果、それを突き崩して自国の戦略的位置を高めようとする幾つかの問題国の狙いから目を背け、戦略物資の備蓄等の経済力の涵養を怠ってきた。その付けが今、新たな対立の時代になって、これまでの安易な政策を糾弾している。

