2026年7月10日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年7月10日

「中国式現代化」を求める論理

 それでは、なぜ中共の導きが「中華民族の偉大な復興」に欠かせないと彼らは考えるのか。概ね次のように説く。

*中共の導きによって過去40数年来、人類史上未曾有のスピードによる経済発展が起こり、かつて貧困にあえいだ中国の人々は、今や生存権を満たされただけでなく、発展を謳歌している。

*今や米国や西側は急速に没落し、中国やロシアをはじめ新興国がそれぞれの地域の「極」となりつつ、互いにWin-Winの関係を目指す「多極化世界」を構築することで、真の世界平和と発展が実現する。

*習近平時代の中共は、中華文明の智慧とマルクス主義の「科学」的精神、そして最先端の科学技術を結びつけて「中国式現代化」を実現した。

*台湾問題を最終的に解決し、中国を米国と並び立ち、さらには凌駕するような「現代化された社会主義強国」にすることが、「中華民族の偉大な復興」の一大到達点である。

*だからこそ、中国の誰もが、物質的生活や生産関係の変化とともに、中華文明を導く原動力としての中共中央=習近平指導部に対する無限の信仰を抱き忠誠を示すべきである。

「中華民族」は近代日本の産物

 しかしこうした主張は、近現代中国の歴史的現実に照らして無理がある。

 そもそも万里の長城の北、あるいは四川盆地の南や西から外側には、中華文明は必ずしも行き届かなかった。草原や砂漠の内陸アジアでは、チベット仏教やイスラムなど、中華文明と並び立つ世界宗教が栄えてきた。

 17世紀に北東アジアから台頭した満洲人中心の国家・清は、やがて明が滅んだのち中華の地をも支配し、内陸アジアのチベット仏教徒やトルコ系ムスリムが住む世界をも影響下に置いた。今日の中国が「核心利益」と位置づける土地の広がりをつくった原動力は、乾隆帝までの満洲人の実力と、様々な文化に対応できるセンスであり、中華文明そのものではなかった(詳しくは拙著『大清帝国と中華の混迷』を参照されたい)。

 その清は19世紀に衰え、様々な列強によって圧迫され、近代外交を強いられるようになると、新たに台頭した中華主義的かつ近代主義的な漢人エリートを中心に、18世紀の乾隆帝が影響下に置くに至った土地の広がりを「中国 China」と読み替え、立て直しを図る動きが強まった。彼らはとりわけ日清戦争に敗れ、日露戦争で日本がロシアを破った快挙を見届ける中、日本の富強と台頭の秘訣は「単一民族国家の日本国民(臣民)」をつくり、人心の統一に成功したことにあると考えた。

 そこで清末に爆発的な勢いで生じた中国ナショナリズムのもと、そのような「日本民族」に並び立つ「中華民族」を創り出すため、漢字や儒学を知らない人々を実力で「漢化」すれば良いという考えが蔓延した。しかし、それは自ずと激しい混乱を引き起こし、モンゴル人はロシアを、チベット人はイギリスを頼りに自立を目指した。新疆のトルコ系ムスリムも民国期の軍閥支配の中、西から伝わるイスラム近代主義の影響のもと、次第に東トルキスタン運動に身を投じた。

 また香港は中国が「暗い近代」の始まりと位置づけるアヘン戦争をきっかけとして、長年来、英国流の経済的合理主義と法治主義に基づく独自の社会であり続け、「東洋の真珠」を造り上げた。その事実は「帝国主義への抵抗」を旨とする「中華民族」の言説と相容れない。

 また台湾は、「中華民族」ナショナリズムが20世紀に流布する前に、日清戦争の敗北で日本に割譲された。以来1945年まで「台湾と日本内地」、そして45年以後は「台湾と、国民党が持ち込んだ中華イデオロギー」の間の葛藤を経て独自の発展をとげた。

 これもまた、「中華民族」が台湾に受け入れられていない所以である。しかし中共から見れば、近現代史の暗さを打破して「中華民族の偉大な復興」を実現するためには、日本への敗北以来「離散」した台湾を完全に中共の支配下に置くことが欠かせないという意識になる。


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