つまり「アルツハイマー病の脳でだけ」で、グルコサミンが症状を悪化させたという結果である。そこで研究チームは「グルコサミンはアルツハイマー病を悪化させる」という仮説を立てて、人間のカルテでその可能性を検討した。
実験4:人間のカルテの解析
米国フロリダ大学の5万人以上の電子カルテを分析した結果、認知症の患者でグルコサミンを摂取していた人は死亡リスクが約25%高いことが分かった。また軽度認知障害の患者では、アルツハイマー病へ進む割合が約25%高かったが、死亡リスクは変わらなかった。
相関関係と因果関係の違い
ここまでの話を聞くと、「グルコサミンはアルツハイマー病を悪化させる!」と思う人が多いだろう。実際にそのようなコメントがSNSにあふれている。しかし、ここで立ち止まって、「相関関係」と「因果関係」を分けて考えることが必要である。
たとえば、「薄毛の人の大部分は養毛剤を使っている」という相関関係があっても、「養毛剤が薄毛の原因である」という因果関係がないことは、誰でも分かるだろう。要するに、相関関係があったとしても、それは必ずしも因果関係を示すものではないのだ。それでは、グルコサミンとアルツハイマー病の関係はどう考えたらいいのだろうか。
動物実験は、動物種、性別、年齢、飼料などの条件を一定にできるので、因果関係を示す力が比較的強い実験である。マウスの実験で、「糖鎖を減らすと記憶が改善した」という結果が出たことは、糖鎖と記憶の関係が単なる相関ではなく、因果である可能性を示唆している。
ただし注意点もある。この実験で使ったマウスは、各グループ3〜7匹ほどと非常に少ない。だからこの結果が偶然に出たものである可能性は否定できない。
また、マウスの記憶テストの成績は変わったにもかかわらず、アルツハイマー病の「本丸」あるアミロイド斑やタウの病変や炎症は変化しなかった。これもまた、テストの成績が偶然の結果である可能性を支持している。さらに、科学の議論で最も重要な、「糖鎖が増える」ことと「記憶が悪くなる」ことをつなぐ生理学的な経路については、何もわかっていない。
このように、マウスの実験の内容を詳しく見ると、「糖鎖が記憶に影響する可能性」を示してはいるが、それはあくまで「可能性」の段階であることが分かる。
次に、人間のカルテの解析 についてはどうだろうか。グルコサミンの摂取がアルツハイマー病を悪化させたという相関関係から、グルコサミンが悪化の原因であるという因果関係を判断する時、専門家が使うのが「ブラッドフォード・ヒル基準」である。その目的は、本当に相関関係があるのか、見つかった相関関係が「偶然」の結果ではないか、「バイアス」がないか、グルコサミン以外の要因(「交絡因子」)が真の原因ではないかを調べることである。
