ウクライナが戦略を維持できる3つの理由
しかしながら、最も重要なことは、フェドロフ氏が進めてきた「新たな戦い方」や「汚職との戦い」という戦略を維持して、対露戦争を戦う体制を構築することができるかどうかであり、同氏とゼレンスキー大統領との個人的関係がどうであったかは本質的な問題ではない。
そして以下の理由により、この点において大きな懸念を抱く必要はないだろう。フェドロフ氏の復帰も議論されているようであるが、仮にそうならなくとも、これまでの路線を維持する方向で何らかの調整がなされるものと考えられる。
第一に、かつ最大の理由は、ロシアとの戦いを有利に展開するためには、フェドロフ氏が進めてきた非対称戦を追求する以外の選択肢がないこと。それは23年夏の「反転攻勢」が失敗したあと25年秋ころまでの期間と、フェドロフ氏が国防相に就任した26年以降の半年の戦況を比較すれば明らかだ。
第二は、ウクライナにとって今後も、欧米との協力が不可欠であること。今回の件は直接的には個別具体的な人事の問題でもあり、欧州連合(EU)や主要7カ国(G7)などは、公にゼレンスキー氏の人事上の判断にコメントするような発言は控えている。
しかしながら、ドローンの開発やAIを駆使した「ネットワーク中心の戦い方」は欧州諸国にとってもウクライナとの協力を是非とも進めていきたい分野であり、またフェドロフ氏が取り組んでいた「汚職との戦い」は、EU加盟を目指すウクライナにおける改革の最重要課題の一つである。これらから外れることの結果をゼレンスキー氏はよく分かっており、引き続き欧米、G7との協力を重視していくだろう。それはフェドロフ路線を継続することに繋がる。
第三に、ウクライナにおける民主主義の力だ。今回、フェドロフ国防相の解任を受けて、キーウに限らずウクライナ国内の多くの都市でフェドロフ支持、あるいはシルスキー総司令官解任を求めるデモが発生した。ウクライナは戦争のさなかにあり、戒厳令が敷かれている。よってデモや集会は厳しく規制されるはずなのだが、実際には日に日に拡大していくデモを当局は取り締まらなかった。
ゼレンスキー氏はフェドロフ、シルスキー両氏のほかに、複数の軍高官と協議を重ね、結局、7月21日にシルスキー総司令官も解任した。いずれにせよ、本件については、何らかの形でフェドロフ路線を維持した上で人事上の問題を終結させる方法がとられたと見てよいだろう。
