米・サウジ原子力協力にとっての障壁
サウジが求めるウラン濃縮技術は、原発燃料の製造に必要なものである一方、高濃縮化によって核兵器用物質の生産にも転用することが可能である。この点が、米国との原子力協力を難しくしてきた最大の要因である。
米国との協力を考える上で重要な先例が、09年に締結された米・アラブ首長国連邦(UAE)原子力協力協定である。米国では、原子炉や核物質、主要な原子力技術を外国へ移転する際、54年原子力法第123条に基づく政府間協定を原則として必要とする。米・UAE協定では、UAEが国内でのウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理を行わないことを法的に約束しており、この厳格な核不拡散条件は「ゴールド・スタンダード」と呼ばれるようになった。
一方、サウジは国内でのウラン濃縮を原子力産業の重要な柱と位置付けており、UAEとは立場が異なる。このため、米・サウジ間での交渉では、(1)サウジ国内でのウラン濃縮を認めるか、(2)使用済み核燃料の再処理にどのような制約を設けるか、(3)これらの活動を認める場合にどのような保障措置・管理制度を設けるか、が主要な争点となってきた。
もう一つの課題は、サウジが国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置協定(CSA)を補完する追加議定書(AP)を、依然として批准していない点である。サウジは88年に核兵器不拡散条約(NPT)へ加盟し、IAEAとのCSAを締結しているが、CSAは主に各国が申告した核物質が軍事転用されていないかを検証する仕組みであり、未申告の核物質や施設を幅広く確認する上では限界がある。
こうしたCSAの限界を補うのが追加議定書であり、IAEAに対して、より幅広い情報の提供や未申告活動の確認に必要な施設への補完的アクセスを認める。このため米議会では、追加議定書の受け入れをサウジとの原子力協力の条件とすべきとの主張が続いてきた。
トランプ政権の方針転換
サウジ・米原子力協力をめぐる交渉は、25年1月の第二次トランプ政権発足後に急速に進展した。同年4月、米国のライトエネルギー長官は、両国が民生用原子力協力に向けた「道筋」に入ったと表明した。さらに11月のムハンマド皇太子訪米時には、「民生用原子力協力交渉の完了に関する共同宣言」が発表され、そして26年7月に原子力協力協定の署名に至った。
注目点として、トランプ政権がウラン濃縮・再処理放棄という「ゴールド・スタンダード」やIAEAの追加議定書の受け入れを、必ずしも原子力協力の前提条件としていなかった可能性がある。報道によれば、今回の協定では、これらを義務付ける代わりに、米国独自の二国間保障措置によってサウジの原子力活動を管理する枠組みが盛り込まれたとみられる。
一方、米・サウジ原子力協力をめぐるもう1つの重要な変数となったのが、サウジ・イスラエルの関係正常化である。バイデン前政権は23年にサウジアラビアに対し、米・サウジ防衛協力、民生用原子力協力、パレスチナ国家の樹立を前提に、イスラエルとの関係正常化を働きかけていた。しかし、同年10月以降のガザ戦争を受け、交渉は停滞し、サウジはパレスチナ国家樹立に向けた具体的な進展を正常化の前提とする立場を強めた。
