当初、候補にあがったのは約15種類。そこからハーブ系なども含む4種類に絞り込み、薬剤との相性などから更に最終の2種を決めた。難しかったのは香料の濃度だった。濃すぎては不快になるし、薄すぎると薬品臭を抑えられない。
(ライオン 薬品事業部) 1982年生まれ。2006年慶應義塾大学商学部卒後、「生活に密着した消費財の企画がしたい」とライオンに入社。同年から大阪府で薬品部門の営業に従事。
10年にヘルス&ホームケア事業本部薬品事業部に配属され、バルサンシリーズやドリンク剤の「新グロモント」などの商品企画を担当している。
春田も「絶妙なバランス」を求め、15人の研究員とともに数十回に及ぶ実験に参加した。「時にはむせ込んだり」しながら進めた検討は3カ月に及んだ。
パッケージのデザインも開発初期段階から並行して進めた。だが、香りを強調しすぎると「芳香剤と誤認される恐れ」もあり、想定外に難航した。最終的には「殺虫」という文字を、やや強調して入れることで商品特性を明確にした。
また、缶の下部を黒くすることで、「しっかりした効き目」もアピールしたという。パッケージは、量産化に向けた印刷の際も苦労した。
実際に鋼板に印刷すると、紙の試作とはやや異なるものになったのだ。春田は妥協せず、量産スケジュールに間に合わせるため、協力工場とともに徹夜で対策を講じた。
ネーミングの「香る」は、この商品の特性を簡素かつスマートに表現している。春田が初期段階に「ひらめいた」ものだが、社内の検討会では、デザイン同様に「芳香剤と誤認されないか」といった異論が多く出た。だが、春田は「これ以外ないと、頑固に頑張った」と笑う。
3年前に初めて自らが企画した商品を送り出した春田だが、売れ行きは芳しくないまま、市場撤退となった。
「香るバルサン」の開発プロセスには、そうした厳しい経験を糧に、ひと回りたくましくなった企画担当者の姿が随所に見えた。(敬称略)
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