2026年8月18日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2026年8月18日

「市場の申し子」による大勝負

 ベッセント氏を一言で言い表すのであれば、市場の申し子である。若き日にはジム・ロジャースに師事、その後はジョージ・ソロスの懐刀として活躍した後に自立。20世紀末から21世紀初頭にかけて株と為替を軸に稼ぎに稼ぎまくった人物である。

 現在のアメリカ経済は、非常に難しい局面に立たされている。コロナ禍以来の過剰とも言える資金はまだ市中に溢れている。これに加えて、バブル化したAI投資と同じくバブル化した不動産投資が市場を支えている。

 AIは雇用への悪影響や暴走への懸念など負の側面が明らかになる中で、それでも投資をし続けている。不動産バブルは、賃貸価格の高騰を誘発し、若い世代に巨大な現状不満を供給している。一方で、減税を続ける中では連邦政府の財政は改善せず、米国債の金利は上昇の気配を見せている。

 そんな中で、トランプ政権は3カ月後に中間選挙を控えている。2期目の大統領の中間選挙というのは、通常であれば政権の総仕上げではあっても、切迫感は少ないことが多い。けれども、今回の中間選挙というのは仮に政権与党が大敗した場合には大統領への弾劾が実施される可能性が取り沙汰されており、政権には非常な緊迫感がある。

 この夏から秋にかけて、仮に株価の暴落、雇用と消費の低迷、そして国債の暴落や不動産バブルの崩壊などが起きれば、これは政権の浮沈ではなく生死に関わる。そして一つの破綻は全体に波及する。不動産バブルの崩壊はAIバブルの崩壊を誘発して、そこに個人のクレジットカード負債の大規模な破綻が加わればリーマンショック級のパニックが起きる可能性は否定できない。

 ベッセント長官は、何よりもこのことを理解しているであろうし、ここで米国経済を破綻から守り、大統領が中間選挙を生き延びるように政権を支えることは、人生後半の大勝負という理解はしているに違いない。そのことを前提に、市場の申し子であるベッセント氏は一体どうして円の防衛という一見すると米国経済にはメリットの薄い政策に突っ込んでいったのであろうか。まずは政治的動機を考えてみたい。

「日本発の国債暴落ドミノ」説の火消し

 政治的にはベッセント氏が円防衛の応援に入る動機はある。まずは、ボスであるトランプ氏とそのコアの支持者にある「80年代のトラウマ」を利用したのは間違いない。

 日本が自動車と電子製品について「集中豪雨的輸出」を行って米国を追い詰めたという記憶は団塊世代には鮮明であり、彼らは当時の「円高ドル安が救い」だという思いを強く刷り込まれている。ベッセント氏はこれを利用したことは想像に難くない。加えて、対中国の微妙な距離感を維持するには、ここで日米両政権の結束を誇示しておくことは得策という計算もあったであろう。

 けれども問題の核心はそこではない。市場の申し子であるベッセント氏としては一つ大きな動機があったと考えられる。それは、Z世代のインフルエンサーや投資たちが2026年に入って声高に叫び続けている「日本発の国債暴落ドミノ」という説を「徹底的に潰しておく」ことである。


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