2026年8月18日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2026年8月18日

 試しに YouTube で "japan debt crisis" というキーワードで検索してみると無数の動画が出てくる。その多くに共通するのは国内総生産(GDP)の200%を超える日本の国家債務に対する素朴な驚きに発し、日本が破綻回避のために米国債を売却することで米国の金利が制御不能になるというストーリーだ。

 彼らは日本国債の相当部分が自国内の個人金融資産と相殺されているといった基礎的な知識がなく、ほとんど陰謀論のように不安を煽っているだけだ。けれども、このような若手の世論がいつの間にかネットの言論で大勢を占めると国際市場に対して一定の影響力が出来上がってしまう。それは米国債への売り圧力につながるし、その延長にはAIと不動産バブルの崩壊という破綻も可能性としては否定できない。

 この「日本発の国債破綻ドミノ」という不安心理というか、市場心理を「今のうちに潰しておく」というのが、ベッセント氏の今回の行動の主要な目的であったと考えられる。ここまでお話していて、多くの読者は不思議に思うかもしれない。ドル売り円買いという今回の協調介入というのは、それ自体はドルを弱める行動であり、米国の側としては危機回避にはならないのでは、という疑問である。当然の疑問であるが、そこにベッセント氏の真骨頂があると言えよう。2点指摘しておきたい。

 1つは、今回の介入は「協調介入」とされているが、米国側としてはその規模は極めて抑制されており、ドル円の2つの通貨の間での調整であっても、世界的なドル安にはならない範囲での限定的な規模に収まっているということだ。

 2つ目は、これが一番大切なのだが、介入にあたって米国債を売却「しない」方法が導入されつつあることだ。まず、米国側の円買い資金は、ドルを直接投入するのではなく、ユーロを売った資金が使用されたとされる。

 また、日本側に関しては、米国連邦準備制度の「外国通貨当局(FIMA)向けレポファシリティー」の活用が検討されたようだ。これは、海外の中央銀行が米国債を担保にドル資金を調達できる仕組みで、米国債を売却せずに介入ができる。

破綻の連鎖を予防

 今回の介入の詳細は不明だが、米国側がユーロを使用したらしいこと、日本側は「外国通貨当局向けレポファシリティー」の利用を検討したらしいことは、報道を通じて確実に市場に伝わった。その結果として、日本政府に対しては「以降は円防衛のために米国債を大量に売却してはならない」という縛りがかかることになった。

 同時に国際通貨市場に対して、「円と日本国債の低落は米国債に連鎖させない」というメッセージを発することにもなったと思われる。もちろん、仮に期間限定であっても沈みゆく円を支えたことは、そうした破綻の連鎖を予防することもなる。

 ベッセント氏が今回「協調介入」に乗ったのは、これが主たる動機であると考えられる。市場の申し子であり、何よりもソロスの懐刀として、90年代後期の変動相場制の激動に学び、アベノミクスで稼いだプロとしては、こうした行動の延長に、株と債券の破綻を予防するというストーリーを描いていたのだと考えるのが最も合理的であろう。

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