2026年8月28日(金)

スポーツの新潮流

2026年8月28日

 一方、戦いでは相手がいます。だから自分が何をするかではなく、相手をどうするかが重要なのです。フットボールは、11人ずつで行う攻守交代制の戦いであり、究極のチームスポーツのように見えますが、実際にはどれほど全体の戦術を立てても、局面では『1対1の戦い』になる。そこで相手に負ければ、プレーは失敗します。相手をどう動かし、どう崩し、どう打ち負かすか。そこに戦いの本質があるのです」

 水野さんの視点は宿敵・関学KGファイターズとの死闘、ひいては現代の安全保障論にまで広がる。

 「私は昔から、戦術の完成度では関学には勝てないと感じていました。関学の選手は中学・高校からフットボールに親しんでおり、競技に対する理解が極めて深い。コーチも選手も、フットボールインテリジェンスが京大よりも高い。同じ土俵で戦うのではなく、選手自身の『個の判断』で勝つしかないと考えたのです。

 そのためには選手が自律的に動き、勝つためには、中央からの指示を理解した上で、現場の状況に応じて自ら判断し、最も有効な行動をとらねばならない。現代の戦いに例えれば、『中央統制』と『末端の自律』が同時に機能し、両立している状態です。これはまさに、ウクライナ軍の戦い方にも通じるものがあります。トップダウンとは、単にトップが決めることが目的ではなく、全員がその意図を理解することが重要なのです」

 つまり、水野さんは40年以上も前から、ロシア軍と戦う現代のウクライナ軍にも通底する『自律型組織』の戦い方を志向していたのだ。

 さらに、データを重視する昨今の傾向にも次のような見方を示した。

 「データはもちろん重要ですが、万能ではありません。なぜなら、相手はデータ通りに動くとは限らないからです。むしろ、試合まではまったく別の戦いをして、相手をだますためにデータを利用することもある。フェイクがある以上、データに頼りすぎることは時として、マイナスにもなる。だからこそ、選手自身が状況を読み、相手を観察し、自分で考える力が必要なのです」

 取材後の翌朝、印象的な出来事があった。2026年サッカーワールドカップ(W杯)決勝戦のテレビ中継で、ゲスト出演していた日本代表の森保一監督が試合直後に語った言葉に、私は思わず膝を打った。

 日本は組織で戦う教育を受けてきたが、(これからは)個人が勝つという責任を持つことが重要である──そのように説いていたからだ。

 時代を超え、水野さんと同じ境地に達したのではないか。そう実感したと同時に、40年以上「個の自律と勝利」を唱え続けてきた水野さんの慧眼に、改めて感服した。

指導者が大切にすべき
選手の育て方の「順序」

 水野さんには、昨今の指導者はどう映っているのか。率直に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

 「指導者にとって一番重要なのは、選手を育てること。そして、育てた選手をどう使うかを考えることが大切です。しかし、今は先に戦術を考え、選手をその〝型〟にはめようとする傾向が見られます。これは順序が逆です。誤解を恐れずに言うと、選手を〝部品〟のように扱っていないか。『自分の言う通りにせよ』ではなく、選手の力を伸ばし、その力をどう生かすかを考えるべきです」

 さらに、現代はスポーツ界だけに限らず、何かとコンプライアンスが重視される時代である。様々な細かい規則=ルールによって縛る風潮に水野さんはこう警鐘を鳴らす。

 「選手の育成とは、『創造』です。つまり『人を変える』こと。そこに正解はなく、手作りであるべきです。しかし、あらゆることに規則を設けて、厳密さと完璧さを求めることは、選手の創造と変革を阻害することにもなります」


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