2026年9月5日(土)

下水道からの警告

2026年9月5日

ベテラン技術者の
暗黙知を形式知化に

 私が民間コンサル時代に目にした目視点検の現場は一昔前にいわれた3K職場(きつい、汚い、危険)の最たるものであった。こうした過酷な労働環境の中で、ベテラン技術者は黙々と様々な部位を「五感」を使って点検し、損傷や変状などが生じていないかを確かめていくのだが、ここに二つの課題があった。

 一つは、多くの場合、こうしたベテラン技術者の技能や経験は言語化も数値化もされず、ただただ、彼らの「頭の中」に蓄積されていくだけだったということである。私は技術者たちの暗黙知を形式知化し、「見える化」することで、膨大な点検データから統計学的に寿命や補修時期を予測する必要性を痛切に感じていた。

 もう一つは、不具合のない(少ない)報告書はクライアントからも注目されることが少ないということだ。実際、ほとんどの橋梁では、点検のたびに多くの不具合が見つかるわけではない。現在は、様々なデータが蓄積される時代になったが、かつては異常なし、つまり〝健全な〟点検データは「なぜ、良かったのか」が注目されることもなく、一定の文書保存期間が過ぎれば廃棄されていた。つまり、現場の苦労が実務に十分に反映されていなかったのだ。

 こうした事情もあり、日本では長らく、寿命予測という研究が進んでいなかった。私はその後、大阪大学に転じ、コンサル時代の経験も生かしつつ、西日本高速道路(NEXCO西日本)や国土交通省、大阪市などとインフラの劣化予測や補修・更新予測といったテーマの共同研究を推進してきた。さらに、老朽インフラの効率的なマネジメント技術を開発するとともに、科学的エビデンスに基づき、適切なマネジメント政策形成を行う「EBPM」の手法を確立することにも注力してきた。

 阪大着任以降、こうした研究過程で培った一つの大きな成果が、大阪市と連携して着手した下水道のコンクリート管渠の老朽化ビッグシミュレーションである。

大阪市の下水道管渠調査で
得られた様々な知見

 下水道管にはコンクリート管のほか、陶管や強化プラスチック複合管などがあるが、大阪市ではコンクリート管が全体の約半分を占め、その数は約11万5000本にも及ぶ。その内訳は、点検を実施し、データが蓄積されている約5万本と、未点検の約6万5000本である。

 これらすべてについて統計的劣化予測を行った結果、いくつかの重要な知見が得られた。

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Wedge 2026年1月号より
下水道からの警告 地下空間の声を聞け
下水道からの警告 地下空間の声を聞け

埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故から間もなく1年。各地で下水道の老朽化が問題になっている。しかし、都市と地方では下水道が整備された年代は異なっており、老朽化に悩む自治体もあれば、縮退を決めた自治体もあるなど、問題は様々だ。下水道をはじめとしたインフラは私たちの日常を支える「基盤」であり、「機能」である。目に見えない地下の世界の声を聞き、私たちが直視すべき課題と解決の糸口を提示する。


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