高リスク者のリストを作る
避難所の運営で絶対に避けるべきは、誰かが倒れるまで待つことだ。避難者が到着したその瞬間に、誰が一番危険なのかを先回りして見つけ出さなければならない。
暑さへの適応能力を失っている人たちへ焦点を当てて、優先的にケアしなければいけない。避難所到着後すぐに、リスクを抱えている人たちをリストアップして、リスクに応じた頻度で声をかけて状態を確認する仕組みを作ることがとても重要になってくる。
ただ機械的に避難者名簿を作るのではなく、リスクの程度で層別化して、それを元に、リスクに応じて誰にどの介入をするかが容易に把握できる「作業名簿」が必要だ。
今回のような高温多湿の環境でリソースが限られている中で、誰を優先的にケアすべきだろうか?
乳幼児や高齢者は、熱の放出に必要な心血管系の予備能を欠いている。自力で涼しい場所への移動や水分の確保もできない。
特定の慢性疾患を抱える人たちも考慮に入れる必要がある。糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病などでは、身体の予備能が著しく制限されており、厳しい暑さで元来抱えている健康リスクがさらに増大する。認知症では、そもそも自分が危険なほどの暑さや渇きにさらされていることさえ正しく認識できない。
妊娠している女性、授乳している女性、視覚・聴覚・言語によるコミュニケーション能力が低下している人、メンタルヘルスや運動能を含めた種々の障害をもった人、ストーマー(人工肛門・人工膀胱)やペースメーカーなど医療機器を装着している人、睡眠時閉塞性無呼吸でCPAP(持続陽圧呼吸)療法が必要な人、人工透析が必要な人へも個別のケアを調整しなければならない。外国人や異文化の人たちへの配慮も必要だ。
避難してきた人たちが抱える併存疾患やケアのニーズを速やかに把握して、優先度を考慮して対象を絞った対策を講じるためには、普段から地域の実情を把握しつつ多職種専門職と連携している家庭医がいて避難所の運営に参画できると幸いだ。家庭医がまだ日本の隅々まで行き渡ってはいないので、かかりつけ医にも平時からその役割を意識して準備してもらえるとありがたい。
薬が熱耐性に与える影響を忘れてはいけない
薬の中には人間の身体が本来持っている暑さに順応する能力を阻害して、大きなリスク要因となるものがある。これは意外と知られていない落とし穴だ。
避難所に着いた時に、お薬手帳などで普段使用している薬をチェックすることが予防の命綱になる。
例えば、OTC医薬品にもなっているNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、高齢者や脱水状態で急性腎障害を起こしやすい。
降圧薬のACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、β遮断薬は低血圧をきたし、めまいや転倒、失神のリスクを高める。尿を出しやすくする利尿薬では口渇感が低下し、脱水や失神、急性腎障害のリスクがある。
めまいや吐き気を抑える抗ヒスタミン薬(第1世代)、パーキンソン病やてんかんの治療薬では、発汗を抑制して体温上昇を加速させうる。認知機能や意識が低下し、体温を下げるために皮膚へ血液を送り出す心臓の働きも弱くなる。
