2026年9月4日(金)

家庭医の日常

2026年9月4日

 うつ病の治療に使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)では、逆に汗をかきすぎて急激な脱水を引き起こす危険がある。

 抗精神病薬は、脳の体温調節機能を阻害する可能性がある。脳が自らを冷却する方法を「忘れて」しまい、本来備わっている防御機能を失ってしまう。治療薬ではないが、アルコールは発汗を亢進し、利尿作用がある。熱や口渇に対する感覚を鈍麻させる。

 薬のリスクは体内だけで起こるわけではない。高温下では、特定の薬剤の有効性が低下したり薬剤投与デバイスが誤作動を起こしたりする危険がある。

 例えば、気管支喘息治療のために吸入薬や、急激なアレルギー反応であるアナフィラキシー用のエピネフリン筋肉注射キットが自動車の車内や郵便受けなどに放置され高温に曝露されて使い物にならなくなっていたら……そんな状況は想像するのも恐ろしい。避難所では緊急薬の安全な保管を保証する必要がある。

喘息治療のための吸入器など、〝暑さ〟に影響を受ける医療器具も多い(Davizro/gettyimages)

 「このような場面で、M.H.さんのようなプライマリ・ケア認定薬剤師が専門知識を活かして避難所の運営に参画してもらえると、避難所の予防医療の機能がバージョンアップしてすごく助かるんです」

 「こうした情報は、平時からお薬手帳に記載したりして、繰り返し注意喚起することができますね」

 「その通りです」

迅速な熱中症トリアージと冷却

 避難所で熱中症に対処する場合に大事なのは、命に関わる重症の熱中症を早期に見分けることである。それを見分けるための決定的なサイン、それは意識障害だ。体温上昇に加えて受け答えがおかしい、混乱している、あるいは意識がないといった症状があれば、それはもう一刻を争う事態である。

 もしそうした重症の熱中症が疑われたら、迷っている暇はない。救急医療のABC(気道・呼吸・循環)を確認して、すぐに救急車を呼ぶと同時にその場で徹底的かつ急速な冷却を速やかに開始しなければならない。

 これが生死を分ける。特に発災直後では、需要の急増で救急車の到着が遅れることも想定されるので、救急車を待つ間にも避難所で患者を冷却できる用意がほしい。

 熱中症には、活動的で比較的若い人が高温下で激しい運動や作業を行っている時に発症するいわば動的な熱中症と、高齢者などが特別な活動もしていないのに室温の高い環境で発症するいわば静的な熱中症とがある。

 前者では、併存疾患が比較的少ないこともあり、氷水に全身を浸すなどの急速冷却が最も効果的な戦略とされている。

 後者では併存疾患も多く、急激な体温の変化への予備能が乏しいので、より慎重な冷却方法をとった方が安全だ。いずれにしても避難所の多職種保健チームによって、患者のバイタルサイン(体温、心拍数、呼吸数、血圧)と意識状態を監視しつつ慎重に実施することが望ましい。患者だけでなく家族やスタッフの安全にも常に配慮する。

 その他の冷却方法としては、氷水につけた冷たいタオルを多くの体表面に当てて、ぬるくなれば次々に交換する、シャワーやホースで冷水を浴びせる、日陰で風通しの良い場所へ移動させる、血流の多い部位(首、腋窩、鼠径部)にアイスパックを当てる、患者の身体に冷水を噴霧して湿った皮膚に扇風機や団扇で風を当てる(蒸発冷却)などがある。衣服を脱がせるために冷却を遅らせてはならない。


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