2026年9月6日(日)

スポーツ界の新潮流

2026年9月6日

人生で大切なことを
教えてくれた中日ドラゴンズ

──愛知県出身のお二人にとって地元球団である中日ドラゴンズはどんな存在ですか。

松田 父が中日好きで一緒にテレビ中継を見ているうちに自然にファンになりました。指名された時はうれしかったですね。「ずっと見ていた憧れのチームに入れるんだ」という思いが強かったです。ドラフト会議で指名されてからは、まちを歩いている時や電車の中でも、「松田さん、頑張れ!」と毎日のように声をかけられ、驚きました。地元の人もそれだけ野球が好きで、見てくれているんだなと実感しました。

現役時代は最速148キロを誇る投手だった松田さん(SANKEI VISUAL)

富坂 私も物心ついた時から中日ファンです。中日が好きすぎて、中日の勝敗を見る前に巨人の敗北を見て喜んでしまう時もありました。

 拙著『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』(小学館新書)にも詳しく書きましたが、中日は、自分の「人生」と重なります。今年の開幕戦となった広島戦は、9回表まで5対1でリードし「油断するよな」と思っていると、同点に追いつかれ、延長戦で逆転される。

 「数は力」という民主主義の基本を教えてくれたのも中日です。例えば、ドラゴンズ栄光の背番号「1」を背負っていた高木守道選手の方が明らかに打率も高くて守備もうまいのに、オールスターのファン投票ではいつも巨人の土井正三選手の後塵を拝していました。テレビで全国放送される機会も多く、巨人が勝てば視聴率も上がり、新聞も売れて、経済効果は他業種にも及ぶ時代でした。中日が巨人のV10を阻止してリーグ優勝した翌日のスポーツ紙1面のほとんどが「長嶋、引退!」とは……。小学生ながら、報道の仕方に疑問を抱いたことを覚えています。

松田 私が中日ファンになったのは落合博満監督の時代です。負ける気がしませんでした。三者凡退が当たり前で、「野球ってこんなにあっさり終わるんだ」と思っていました。

富坂 私は1980年代前半の近藤貞雄監督の時代です。「意外性」を教えてくれた一味違うチームでした。宇野勝選手は「ヘディング事件」のイメージが強いですが、唯一遊撃手での本塁打王獲得、シーズン遊撃手最多本塁打記録(41本)の持ち主です。当時、宇野さんのように守れて打てる選手はいませんでした。また、星野仙一選手や中尾孝義選手など、他球団とは〝一線を画す選手〟がいたことは中日の誇りでした。

大型遊撃手として中日打線をけん引した宇野勝選手(FOCUS ON SPORT/GETTYIMAGES)

 毎年「今年こそ優勝する!」と信じています。でも期待した選手が活躍するとは限らず、投打もかみ合わない。だからこそ人生そのものなんです。うまくいかない歯がゆさが、ファンをやめられない理由です。

──東海地方の方々は他の地域・球団に比べて、ドラゴンズへの思い入れが強いと感じますか。

富坂 本当にそう思います。逆に他の地域で中日ファンに出会うと、本当に驚きます。東海地方の「地域性」を感じますね。

松田 正確なことは言えませんが、2軍の試合でも、あれだけの観客が入るのは珍しいのではないかと思います。東海地方ではドラゴンズの応援番組が東海テレビとCBCで放送されています。2つの放送局が応援番組を放映しているのは、東海地方だけではないでしょうか。『中日新聞』が東海地方をカバーするブロック紙であるという影響も大きいのかもしれません。

──近年、独自の戦略で力をつける球団や、球場を起点にまちづくりを行う球団が出てきています。

富坂 特にパ・リーグは、それぞれの球団に〝個性〟がありますよね。オリックスは「世界大会に出場する選手を育てる」と明確なビジョンがあったと聞きました。現在、ロサンゼルス・ドジャースに所属する山本由伸選手やボストン・レッドソックスの吉田正尚選手がそうでした。

松田 昔から人気のセ・リーグに負けないよう、新しいことを取り入れてきたパ・リーグの努力が、結果として交流戦での勝ち越し数などにも現れてきた形がしますよね。

富坂 その点、昔の中日はプロ野球に新たな潮流を生み出した「パイオニア」的な側面がありました。前述した近藤監督時代に中日では投手分業制を確立しました。さらに、「守りの野球は古い」と超攻撃的な野球をする「野武士野球」は見ていてワクワクしました。

 助っ人の獲得では、保守的どころか、むしろ進取の精神を掲げ、グローバリゼーションを体現していました。台湾出身でストッパーとして活躍した郭源治選手や一本足打法の大豊泰昭(陳大豊)選手、1996年には韓国の至宝と呼ばれた宣銅烈選手や「韓国のイチロー」こと李鍾範選手も連れてきています。キューバ・ルートも開拓し、英雄リナレス選手を獲得したのも中日です。

松田 おもしろい視点です。また、エスコンフィールドなど、球場を中心にまちができる動きにも注目しています。中日も二軍の本拠地が移転する話もありますので、良い形で地域が盛り上がるといいですね。

富坂 名古屋の強みは、もともとまちがあることです。球場を起点にまちをどう再設計できるかという視点が必要かもしれません。名古屋は城下町としての歴史も深い。歴史的にも十分ポテンシャルがあるはず。

 個人的におもしろいアイデアと思っているのは、「IPとのコラボ」。例えば、鳥山明さんに全面協力をしてもらって、ドラゴンつながりで中日と『ドラゴンボール』がタッグを組めば、世界中のアニメファンも巻き込めたのではと思います。それぞれの強みを掛け合わせ、新しい可能性が生まれるといいですね。


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