国際的に見て高いのか
世界各国と比べるとどうなのか。主要国・地域の短期滞在ビザ手数料を見ると、欧州連合(EU)・シェンゲン圏はおおむね90ユーロ、英国のStandard Visitor Visaは120ポンド台、米国のB1/B2ビザは185ドル、カナダのVisitor Visaは100カナダドル程度である。為替レートにもよるが、概算ではシェンゲン圏が約1万5000円、英国が約2万4000円、米国が約2万8000円、カナダが約1万1000円となる。なお、カナダでは申請者によってバイオメトリクス(生体認証)費用が別途必要になる場合がある。
この比較だけを見れば、日本の一次査証1万5000円は、主要国と比べて突出して高いとは言えない。一方、数次査証3万円については、やや高めに映る可能性がある。
米国B1/B2ビザは185ドルで、発給されれば長期・数次利用が可能となる場合が多い。シェンゲンビザも、同じ手数料で数次発給される場合がある。英国は有効期間に応じて料金が異なる。したがって、日本は一次査証では国際的に突出して高いわけではないが、数次査証や手続き負担まで含めると、「費用も手続きも重い国」と見られるリスクは残る。
「何人減ったか」だけで政策を評価してよいのか
仮にビザ手数料の引き上げによって対象国・地域からの訪日客が減ったとして、それだけで政策は失敗なのだろうか。今回の追加負担1万2000円は、平均旅行支出の約5.5%である。実際に需要がどの程度減るかは、所得水準、旅行目的、為替、航空運賃、競合国の状況などに左右される。ただし、観光消費総額を維持するために必要な一人当たり消費額の増加率は計算できる。
訪問者数が5%減少しても、一人当たり消費額が約5.3%増えれば総額は維持できる。10%減少する場合でも、一人当たり消費額が約11.1%増えればよい。
ただし、ここで重要なのは、「政府がビザ手数料から得る収入」と「旅行者が日本経済全体にもたらす価値」は同じではないという点である。Pham、Nghiem、Dwyer(2018)は、価格感応度が高い中国人訪豪客を対象に、ビザ手数料変更の経済波及効果を分析した。その結果、ビザ手数料を引き上げれば政府の手数料収入は増える一方、旅行需要の減少を通じて観光関連産業を含む経済全体にはマイナスの影響が生じ得ることを示した。
この研究をそのまま日本に当てはめることはできない。しかし、基本的な示唆は重要である。政府のビザ収入が増えても、旅行者が減り、宿泊、飲食、交通、小売、娯楽などへの支出が失われれば、日本経済全体としてプラスになるとは限らない。
したがって、今回の政策は「ビザ手数料収入がいくら増えたか」だけで評価しても、「訪日客が何人減ったか」だけで評価しても不十分である。見るべきなのは、旅行者数、一人当たり消費額、政府収入、地域経済への波及効果を合わせた、日本に残る価値全体である。
