2026年9月14日(月)

Wedge REPORT

2026年9月14日

 だからこそ、日本の観光政策も、訪日客数だけではなく、次の指標を組み合わせて評価すべきである。

• 一人当たり消費額
• 滞在日数
• 地方宿泊率
• 閑散期利用率
• 再訪率
• 地域所得
• 住民満足度
• 文化・自然への負荷
• 混雑や環境負荷の程度

 本稿では“Value(価値)”を強調しているが、High Value Touristは富裕層と同義ではない。日本文化、食、自然への関心が高いリピーター、温泉や伝統文化の愛好者、アニメやゲームのファンなどは、必ずしも高所得者とは限らない。それでも、日本固有の経験に対するWillingness to Pay(支払い意向)が高く、長く滞在し、地方を訪れ、地域で消費し、再訪するのであれば、地域にとって価値の高い旅行者である。

行政サービスの価値も上げよ

 日本のビザ手数料は、観光税や入域料ではなく、基本的には査証発給の行政手数料である。したがって、ニュージーランドのIVLやブータンのSDFと同じようには考えられない。

 しかし、旅行者の負担が5倍になるなら、行政サービスの価値も問われる。査証審査の迅速化、オンライン申請、多言語対応、審査状況の可視化、必要書類の簡素化、審査期間の予測可能性向上などは進めるべきである。「5倍になったが、サービスは変わらない」では、旅行者や旅行会社の納得は得にくい。

 価値を高める責任は、行政だけでなく観光産業にもある。宿泊施設は、地域の食、文化、自然、温泉、ウェルネス、ガイド体験を組み合わせ、連泊する理由をつくる。飲食店は、食材、生産者、風土、酒や器まで含めて体験価値を高める。小売業は、地域性や職人性を伝え、帰国後のECや再訪へ関係を広げる。自治体やDMOは、混雑地域から周辺地域への分散、閑散期需要の創出、地域内での消費循環を設計する。

 高付加価値化とは、単に「高くして客を選ぶ」ことではない。地域へ来る理由、長く滞在する理由、地域でお金を使う理由を強めることである。

「値上げ」ではなく「価値上げ」を

 日本が目指すべきなのは、単純な「高価格・少人数」モデルではない。一定の訪問者数を維持しながら、一人当たりの経験価値と消費額を高め、地方や閑散期へ需要を分散し、そこで生まれた利益を地域、文化、自然、観光インフラへ還元すること。つまり、価値、量、分散、持続可能性を同時に最適化する観光である。

 今回のビザ手数料引き上げをめぐる本当の問いは、1万5000円を余計に払ってでも、日本へ行きたいと思わせる価値をつくれるのか、である。その観光によって、旅行者だけでなく、観光事業者、地域経済、住民、文化、自然に残る価値をどこまで大きくできるのか。

 日本のインバウンド観光は、円安や物価の相対的な安さという追い風を受けてきた。しかし、安さは永続的な競争優位にはならない。必要なのは、「値上げ」ではなく「価値上げ」である。

 ビザ手数料5倍を日本観光の競争力低下としてだけ捉えるのか。それとも、「安いから選ばれる日本」から「価値で選ばれる日本」へ移行する契機とするのか。問われているのは、そこではないだろうか。

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