企業にとって健康保険組合の支出は「対岸の火事」
なぜ、企業は、傷病手当金問題が「炭鉱のカナリア」であることに気づかないのか。それは、その費用が企業の損益として目の前に現れないからである。
傷病手当金に関しては、被保険者(労働者・患者)、事業主(企業)、保険者(健康保険組合)、療養担当医(主治医)の4種ステークホルダーが関わる。このうち受給する被保険者と、医療収入を得る療養担当医には、強い正のインセンティブが、支払う側の保険者には負のインセンティブが加わる。
事業主はどうか。毎月自分で財布を開いて、社員の傷病手当金を渡しているわけではないので、企業としては「身銭を切って」いる自覚がない。実際には、健康保険料は社員と会社とで折半しているのだから、企業だって負担している。
しかし、事業主にとっては、自身の財布ではなく、社会保険という別の財布に押し付けることによって、傷病手当金問題を対岸の火事としか感じなくなる。結果として、保険者だけが「一人負け」となる。
病める産業国家日本
オランダで82年から94年まで首相を務めたルベルス首相は自らの国を「病んでいる」と言った。当時、オランダでは労働不能給付受給者が100万人に近づき、障害給付制度への支出が国内総生産(GDP)の4.2%に達した。
今の日本はこれに酷似しており、病んでいる。休職と障害給付が年々増加し、労働市場から退出した人を社会保障制度が長期間抱えている。「日本病」とは、本来、バブル経済崩壊以降の長期低迷を指す。外患、すなわち、企業を取り巻く社会情勢だけが、日本病をもたらしているわけではない。むしろ、内憂、すなわち、会社の中にある人的環境の悪化が健康問題に翻訳されて、弥縫策としての休職が事態を悪化させているのではないか。
産業日本は病んでいる。そのことに健康保険組合は気づいている。「炭鉱のカナリア」の警鐘に、社会全体が耳を傾けなければならない。

