なお攻撃を望むロシア国民
周囲は危険を阻むほかなし
しかし、プーチン大統領は可視化された損害について、本当に危険な水準に達したと捉えているのだろうか。ロシアは失敗を正して、国民に鮮やかな未来を確信させる必要がない。ロシアに必要なのは、大多数を不幸に陥れる政治の混沌を避け、耐え難い苦難を周縁の少数者に集中させ、小規模な苦労を主流の多数者に耐えさせることである。
ロシア国民には、西側諸国が「キエフ政権」を手先にしてロシアを脅かしているので、プーチン政権が率いる勇敢なる戦いに貢献すれば、自分たちは勝ち残れるという物語が与えられている。
西側諸国からの「偽情報」を信じればロシア社会から排除される恐怖、ロシアが戦いをやめてプーチン政権が弱体化すればロシアが崩壊する恐怖がつきつけられている。現状を改善し、かつ安定を保証してくれる政治家は他にいない。現状肯定が最もマシなのであれば、ロシア国内の世間に順応して少しでも自分に有利になるように生きるのが最適となる。
これは、世論調査や選挙結果にも反映している。レヴァダ・センターの今年7月の世論調査によれば、軍事作戦をおおむね成功とみなす人は昨年7月の69%から50%にまで低下し、62%の人が戦争終結のための交渉を望んでいるものの、ロシア軍の行動を支持する人は徐々に減少傾向にあってもなお66%を占め、56%が譲歩よりも攻撃拡大を望んでいる。
9月18~20日にかけて行われた連邦議会下院選挙でも、多くの作戦経験者を候補に含む統一ロシアやロシア自由民主党が議席を増やし、前述のような経済不安を訴えたロシア共産党は議席を減らした。クレムリンは、この苦境においても戦争継続の正統性を更新することに成功したとみなし、兵力の動員や社会の統制がしやすくなる。国民の不安や不満が高まっているとはいえ、まだプーチン大統領の行動を変えるほどの力には見えない。
その間にもロシアは、ウクライナの生活や産業に破壊をもたらし続けている。欧州諸国へも、戦闘機やドローンを送り込み爆発物を仕掛けるなど、危険で破壊的な攻撃を続けている。これらの攻撃に対し、北大西洋条約機構(NATO)は反撃を行ってロシアとの武力衝突を広げるわけにはいかないが、適切に対応できなければ、加盟国の国民がNATOに守られるという信頼は失われていく。ロシアとの対立は有害無益なので関係を改善すべきという政治勢力が伸びれば、NATOは断固とした意思決定をしにくくなる。
もし、NATOが集団防衛の機能を実質的に失いつつあるとロシアが認識すれば、例えばNATO加盟国・エストニアのロシア語話者が多く住む地域において武力紛争を起こし得る。そうなればNATOは、ロシアとの武力衝突か、それを避けて同盟を瓦解させるかという選択になる。
ロシアはこのような破壊的な行動を、可能である限り続け、相手の弱体化を期待している。ロシアの周囲で問題に接する諸国は、ロシアの攻撃的な行動に成果を与えず、さらなる行動にも対抗できることを示して、危険の拡大を阻み続けるほかないだろう。

