本件社説はこの点を問題であるかの如く論じているが、これには賛同できない。社説は「戦略的敗北を強いる」ことを目指さないと明言することは、プーチンにNATOとの戦争をひきおこしても「自身の権力基盤は安泰と確信」させ、抑止にならないのではないかと指摘する。
「戦略的敗北」が何を意味するかにもよるが、軍事力は侵略を防ぐことを目的とすれば良いのであって、例えば、侵略国側の政権崩壊までを目指す必要はない。そのためのコストは高くなりすぎる。それは米国がアフガニスタンやイラクで嫌と言うほど味わってきたことだ。
「新戦略」への疑念
新戦略は以上の他に、①多領域における優位(陸海空だけでなく宇宙、サイバー空間等を含む)を確保すること、②AIやセンサーを駆使して自律的な戦闘領域を形成すること、③高価な精密誘導兵器のみに頼るのではなく安価なドローンなどを十分活用することなども含んでおり、これらが計画通りに実行されれば、欧州の防衛力は大いに強化されるだろう。
しかしながら、本件社説にあるように、この「新戦略」には、米国の協力がどの程度期待できるのかという根本的な疑念が伴う。この点、「新戦略」における米軍の役割について具体的な説明はない。ところが「新戦略」が機能するためには、これまで同様、あるいはそれ以上に米国の協力が必要となる。
グリンケウィッチ司令官は、今回「新戦略」を公表したのは、NATOが「事態を掌握している」ことを国民に示すためであるとした上で、安全保障環境がますます厳しさを増しつつある中でも、NATOは「あらゆる潜在的な脅威に対処しうる能力と実力を備えている」と明言した。
欧州の安全保障環境を厳しくしているのは他ならぬロシアである。これに対し、NATOの軍事部門は「対処の準備はできているから安心せよ」と言い、一方トランプ政権は、逆にロシアに対する宥和姿勢を一層強くしている。この矛盾がある限り、NATOの対応に対する疑念が解消されることはないだろう。
