2026年11月2日(月)

プーチンのロシア

2026年11月2日

 ロシアにとって、中国、インド、トルコといった西側諸国の制裁に加わらない国々への石油・LNG輸出は、戦費で逼迫する国庫を支える生命線だ。ロシア大統領令第686号の冒頭には、米国等の非友好的かつ国際法に反する行動への対応措置と明記されており、グラハム法の成立が契機になったのは確かだろう。

ドローン攻撃への防衛策

 二つ目はウクライナ軍によるドローン攻撃に利用されうる情報の流出を抑制したい狙いがある。ウクライナ軍によるロシア国内製油所へ燃料貯蔵庫へのドローン攻撃が相次ぎ、ロシアの石油精製能力は大幅にダウンしている。ロシア国内で深刻なガソリン不足と価格高騰が表面化したため、ロシア政府は、年末までガソリンの輸出を禁止し、ディーゼル燃料の生産者による輸出は10月31日まで禁止され、さらに年末まで延長される見込みだ。

ウクライナのドローンは、ロシアにとって脅威となっている(EvgeniyShkolenko/gettyimages)

 製油所の稼働率や製品の生産・販売・取引量を明らかにしないことで、数ある製油所の中でも、どこを叩けばロシアが最も困るかという戦術的なヒントをウクライナに少しでも与えないようにするロシアの防衛策といえよう。

一定の効果

 もっとも、衛星画像や船舶自動識別装置(AIS)を使用すれば、石油タンカーの物理的な動きは追跡可能なのではないかという疑問がわく。しかしながら、ロシアが、税関データ、取引価格や保険の統計を隠すことにより、西側諸国としては、いくつかの壁にぶつかる。

 まず、西側制裁のロシア産原油に対するプライスキャップは、衛星で船の動きが確認できても、その船に積載された原油がいくらで取引されたか、船の所有者はどのペーパーカンパニーなのかといった商流データがなければ、特定の企業や船を制裁対象として指定するための行政手続きに耐えうる確実な根拠が掴みにくくなる。1000隻を超えるとされるshadow fleet(影の船団)はGPSを偽装したり、洋上で別の石油タンカーに原油を移し替える瀬取りを行うが、24時間すべての船を対象として衛星を通じて追い続けるには膨大なコストがかかる。

 つまり、公式の統計データが消えることで、疑わしい船を1隻ずつ調査することを強いられ、ロシアの制裁をかいくぐる動きを西側諸国が捕捉する作業の迅速性を低下させることが可能だ。

 ウクライナ軍によるドローン攻撃も、今や民間衛星や現地からのSNS情報によって、製油所のダメージの度合いは概ね把握されている。他方、ロシアが製油所の生産や出荷統計の開示を完全に止めることにより、ウクライナとしては、ダメージを与えた製油所の何れの設備が完全に破壊されたのか、いつまでに復旧が可能なのかといった、戦闘被害評価(BDA:Bomb Damage Assessment)の精度が損なわれる。これにより、ウクライナによる攻撃、被害評価、次の攻撃対象の選定という一連のPDCAサイクルの効率性も低下する。


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