苦しいロシアの環境
西側制裁の実行手続きとウクライナのドローン攻撃をスローダウンさせる効果を狙うことが今回の燃料エネルギー情報統制の本質といえるが、その裏返しとして、ロシアが前述した米国の「地獄の制裁法」による二次関税とウクライナのドローン攻撃を、従来以上に切迫した脅威として受け止めている証左といえる。
石油・ガス税収はロシア政府歳入の約5分の1を占めるが、ロイターの2026年10月15日時点の推計では、26年1~10月のロシア政府の石油・ガス収入は前年同期比14%減となる見込みだ。また、国際エネルギー機関(IEA)によると、26年7月、ウクライナ国境から約2500km離れたロシア最大のオムスク製油所が攻撃対象となり、26年1~8月、ロシアの製油所は平均3日に1回の頻度で攻撃された。
もっとも、ロシア大統領令第686号と対を成すグラハム法とウクライナ軍のドローン攻撃は、11月3日に中間選挙を控えるトランプ政権下、当初の思惑と異なる展開を見せている。トランプ大統領の支持率低迷の背景には、インフレや生活費の上昇に対する国民の不満があるが、中でもディーゼル(軽油)価格は26年10月19日時点で1ガロン6.276ドルと高水準にあり、国民の物価高への不満を増幅させる一因となっている。
かかる中、10月9日の米露首脳電話会談後、トランプ大統領はロシア産ディーゼルを米国含む世界市場に供給することでプーチン大統領と合意したと発表した。翌10日には、ウクライナによるロシア製油所へのドローン攻撃が世界的なディーゼル不足を悪化させ、米国の農家や牧場主を含め世界に問題を引き起こしているとして、ゼレンスキー大統領に攻撃の停止を強く要求、「合意をまとめられる新しい指導者に代えた方がいい」とまで述べ、ゼレンスキー大統領への批判を強めた。
さらに、トランプ大統領は10月16日、グラハム法の対ロシア制裁・関税の主要部分について適用をwaive(免除)する大統領令に署名している。米軍によるイラン攻撃とホルムズ海峡の封鎖がエネルギー価格高騰の原因として争点化することを避けるかのように、エネルギー価格高騰の矛先をウクライナによるロシア製油所攻撃へ向ける発言を繰り返していると見えなくもない。
プーチンが狙う情報環境
ロシア大統領令第686号は、単なる情報統制にとどまらず、製油所の生産・販売動向をブラックボックス化することで、ロシア産ガソリンやディーゼルの供給不安を市場に意識させる効果を持つ。折しもトランプ大統領は、米国内の軽油価格の上昇とウクライナ軍によるロシア製油所への攻撃を関連づける発言を繰り返している。
プーチン大統領による燃料エネルギーの情報統制とトランプ大統領の発言に直接的な連携があることを示す証拠はないが、ロシアが燃料エネルギー情報を遮断すれば、「ロシアの製油所を攻撃すれば世界の燃料価格が上昇する」という主張の真偽を外部から検証することは難しくなる。そこにトランプ大統領がウクライナの製油所攻撃を燃料価格高騰と結びつける発言を重ねることで、結果としてロシアに有利な情報環境が生まれている。
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